33:反省と確認
「……」
「ブン。起きましたか。トビィ」
ラボのアバターで目覚めた俺は無言で立ち上がる。
で、とりあえずだが……。
「ふんっ!」
「トビィ!?」
全力で壁を殴った。
「うがあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「!?」
そして喉が裂けかねないほどの強さで叫び声を上げた。
「はあっ……」
「えーと、大丈夫ですか? トビィ?」
「ああっ? 大丈夫なわけねえだろ。俺は負けて悔しくないなんて聖人様あるいは根性無しじゃねえんだよ。負ければ悔しいし、イラつくし、何かを殴らずにはいられなくなる。だが、イラついている相手はネルではないし、ティガでもない。俺自身だ。最初の反応遅れ、パイコーンたちへの対処ミス、準備不足、特殊弾が来ないと思っていた慢心、反省点なんぞ腐るほど……そう、腐るほどありやがる」
俺は歯を食いしばる。
拳を握り締める。
額を床に打ち付ける。
今抱えている怒りを忘れないようにするために。
忘れはしないが発散はさせるために。
押し付けられた物体に生じるひずみのように力を蓄えるのだ。
「ふううぅぅ……落ち着いた」
幸いにして俺は落ち着きやすい人間だ。
こうしてある程度暴れて、ある程度怒りを発散すれば、思考能力は正常に戻る。
「ティガ。何かしらの通達事項はあるか?」
「ブーン。ああはい、フレンド登録申請が一件来ていますね」
「誰からだ?」
「『デビュー』のフッセからです」
「ふうん……」
さて、落ち着いたところから、一つずつやるべき事をやっていこう。
まずはフッセからのフレンド申請か。
どうやら坑道探索のマルチ、バーサス、カオスで遭遇したプレイヤーにはフレンド申請を送れるようになるらしい。
そして、フレンドになればマルチで一緒に遊びやすくなるし、連絡も取りやすくなる、と。
「目的はリベンジをしやすくするため、と言うところか。マルチで組む場合を考えても、フッセは優秀な射手で出来れば組みたい相手だ。断る理由はないな」
「ブン。では受領しておきますね」
俺はフッセからのフレンド申請を受け入れた。
フッセは強烈なキャラクターではあったが、中身はマトモなように見えた。
フレンドになっても損どころか益しかないことだろう。
まあ、俺は自分のペースでしかやれない人間なので、マルチで一緒に遊ぶかは不明だが。
「次は……そうだな。ネルにフレンド申請を出しておいてくれ」
「ブブ、いいんですか?」
「優秀なプレイヤーとフレンドになれる可能性があるなら、その可能性は生かした方がいいだろ。フレンドになった方がリベンジもしやすいからな」
「では出しておきます」
続けてネルに対してフレンド申請を出した。
なお、ネルが俺からのフレンド申請を断る可能性がある事は勿論理解しておく。
誰とフレンドになるかは個人の自由だからな。
俺自身が自由に生きているのだから、相手の自由だって認めて当然だ。
「それから失われたもののチェックは……する意味がないから、得たもののチェックをしていくか。設計図は残っているんだよな」
「ブン。設計図は残っています」
続けて俺は今回の第二坑道・ケンカラシで手に入れた設計図を見ていく事にする。
とは言え、見る価値のある設計図となると……マスケットガン、ラミアアームR、ナックルダスター、オークレッグ、二個目のモロトフラック、特殊弾『燃焼弾』……普通に結構あるな。
しかも、どれもきちんと見ておいた方がよさそうなものだ。
△△△△△
マスケットガン
種別:パーツ
部位:武装
対応:物理-物理-外部-射撃
マスケット銃を模して造られた単発銃。
威力、精度、射程、いずれも心もとないが、銃器としてはとにかく作りやすい。
≪作成には同一のマテリアルが10個必要です≫
▽▽▽▽▽
△△△△△
ラミアアームR
種別:パーツ
部位:右腕
対応:物理-生物-内部-DoT
人間のものによく似ているが、僅かに生えている鱗が人間のものでないことを表している。
≪作成には同一のマテリアルが10個必要です≫
▽▽▽▽▽
△△△△△
ナックルダスター
種別:パーツ
部位:武装
対応:電撃-化学-外部-強化
手に填めて、手を保護すると同時に、打撃力を強化するための武器。
ただ、ゴーレムの体でわざわざこれを使う者は、よほどの物好きだけになるだろう。
≪作成には同一のマテリアルが5個必要です≫
▽▽▽▽▽
△△△△△
オークレッグ
種別:パーツ
部位:脚部
対応:拒絶-魔術-境界-防御
人間のそれとは比較にならないほどに太くたくましい脚は、見た目相応の耐久度を有している。
≪作成には同一のマテリアルが10個必要です≫
▽▽▽▽▽
△△△△△
モロトフラック
種別:パーツ
部位:武装
対応:火炎-物理-外部-強化
火炎瓶を内部で自動生成する
火炎瓶は強い衝撃を受けると割れ、割れた場所を中心に火炎属性のダメージと燃焼の状態異常を与える領域を60秒間生成する。
破損するほど強い衝撃を背負子が受けると、背負子の中の瓶は割れてしまう。
≪作成には同一のマテリアルが10個必要です≫
▽▽▽▽▽
△△△△△
燃焼弾
種別:特殊弾
形式:火炎-化学-外部-DoT
着弾点に炎を発生させ、着弾した相手を焼く事が出来る特殊弾。
その炎は相手の材質がなんであれ、しばらくは燃え続ける事だろう。
≪作成には鉱石系マテリアルが1個、特定物質:緋炭石が5個必要です≫
▽▽▽▽▽
「おー、モロトフラックが特殊弾対応になったな。他のも中々だ」
「そうですね。ただ、どのパーツと特殊弾にしても、合致するものはありませんね」
「そこは地道に設計図を集めるしかないだろ。どう見てもガチャの類だしな」
悪くはないな。
とりあえずマスケットガンと特殊弾『燃焼弾』以外については作る事になるだろう。
ラミアアームの方がコボルトアームよりも有用だろうし、ナックルダスター、オークレッグ、新たなモロトフラックについては言わずもがなだ。
作らない理由がない。
とは言えだ。
「さて、疲れたし一度ログアウトするか」
「ブン。分かりました。お疲れさまでした。トビィ」
流石に二度の坑道探索で疲れた。
俺はログアウトして、休むことにした。
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