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31:現れる無名

≪『無名』のネルと探索している坑道が繋がりました≫

「意外と居るじゃねえか。他プレイヤー」

『ブン。そうですね』

 フロア3に進入すると同時に、別のプレイヤーがいると言う表示が出てきた。


「で、『無名』って称号は……もしかして未設定のそれか?」

『ブン。その通りです』

「『ルーキー』、『ヒヨッコ』、『デビュー』より圧倒的に格好いい称号が未設定に隠れていたかぁ……」

『隠れていたのは否定できませんねぇ』

 俺は周囲を確認。

 とりあえず人影はない。

 また、戦闘音の類も聞こえない。


「ティガ。向こうの進入は何時だ?」

『162秒前です』

「約3分前か。装備、立ち回り、遭遇運次第じゃ既に一戦終了済み。そこでアナウンスが来たなら……待ち伏せも考えておいた方がいいか」

 俺は一度左腕を見る。

 左腕は肘から先がない状態であり、現地ラボに入らなければマテリアルがあっても修理できない状態だ。

 この状態で対人戦か……。


「厳しいな」

『ブーン? トビィにしては弱気ですね』

「弱気じゃなくて冷静に判断しただけだ。相手がどんな奴なのかは分からないが、初日からバーサスモードに入ってきているような奴だぞ。だったら、50%ぐらいの確率で遭遇戦ガチ勢、45%ぐらいの確率で決闘ガチ勢、残りの5%に検証班、エンジョイ勢、その他諸々が入ってきていると考えていい。つまり、95%ぐらいで対人に慣れているし自信もある奴だ。そんな奴相手に片腕で戦うんだから、厳しいと判断するしかない」

『ブブ。数字の根拠はあるんですか?』

「勘と経験と体感。つまりは無根拠だ。だが、そう大きくは外れていないだろうよ」

 ちなみにだが、遭遇戦ガチ勢と決闘ガチ勢は、同じPvP系統のスタイルではあるが、その中身については全くの別物だ。

 遭遇戦ガチ勢は相手を探す事から始め、戦いの前に罠を仕掛けるなどして自分に有利な状況を作り出し、如何に事故の被害を少なくしつつ、相手を仕留めるかを競う事を好む連中で、要するに狩猟を好む連中だ。

 対する決闘ガチ勢はその辺の小細工や事前準備は好まず、用意ドンで相手と同時に動き出して、勝敗を決する連中であり、要するに競技を好む連中と言ってもいい。

 ついでに言えばPvPを好む連中の中には、策略ガチ勢、自己修練勢、いじめを好むただのクズとかも居るんだが……今は関係ないだろう。

 とりあえず今関係する範囲で言える事としては、相手が遭遇戦を好むか決闘を好むかで、対処法がまるで別物になるので、これらはPvP勢で一まとめにしない方がいいという事だ。

 ま、どちらが来ても今の俺には厳しいことは間違いないが。


『ブーン。そうですか……』

「そうそう、と」

 さて、その辺の話をしている間に二つ目の部屋だ。

 一つ目の部屋は既にネルとやらが探索した後だったらしく、何もなかった。

 なので、注意を払いつつ、やってきたのだ。

 で、通路の出口から部屋の中を覗いたわけだが……。


「「「マッツ、マッツウゥ」」」

「おーう、マジか……」

『パープルパイコーンが三体にヴァイオレットパイコーンが一体ですね』

 紫色の松ぼっくりが三つに、菫色の松ぼっくりが一つ、部屋の中心で、体を小刻みに左右に振っている。

 いやこれは……普通に厳しいな。

 菫色の体表にヴァイオレットの名前という事は、第一坑道・レンウハクのボスであった菫キパとランク的には同等という事。

 戦闘能力そのものはこちらのが下なのは間違いないだろうが、ヴァイオレットのランクという事はシールドゲージ持ちであり、削り切らなければ倒せないという事だ。

 片腕で四体、しかもホワイトの時に行動を碌に見ていない奴なんだよな。


『ブーン。トビィ、別ルートを探し、次のフロアへ向かう事を優先してもいいと思いますが?』

「いや挑む。勝てるか怪しいが、此処で勝てないなら、どうせこの先のフロアに行っても勝てないしな。だったら挑んで、回収できるものは回収した方がいい」

『ブン。そうですか』

 まあ、厳しくても挑むのだが。


「さて、上手く燃えてくれると楽なんだが……なっ!」

「「「!?」」」

 挑むと決めたなら即時行動だ。

 俺はまず火炎瓶を四体のパイコーンの真ん中に落ちるように投擲。

 驚いたパイコーンたちは四方へ向かって飛びこむような回避行動をとって、炎の領域から逃れる。

 だが、その行動は傍から見て極めて隙だらけな行動だった。

 という訳で俺は素早く接近し……。


「オラァ!」

「マッツウ!?」

 右腕で掬い上げるようにアッパーし、紫色のパイコーンを炎の中に向けて吹っ飛ばす。

 するとモロトフラックの元になっただけあって、火に入るのは良くないことなのだろう。


「パイイイィィィン!」

「よし、燃え……」

 炎に入った紫色のパイコーンは激しく燃え上がった。


「ヤバァ!」

 俺の想像以上に。

 直径にして4メートル程度の範囲が激しく燃え上がったのだ。

 俺は急いで後退し、炎の範囲外に出る。

 その間にも、まだ立ち上がっていなかった他のパイコーンたちが火にまかれて燃え上がる。


『トビィ!』

「分かってる!」

 二体の紫色のパイコーンは自分を中心に直径4メートルを炎上させた。

 菫色のパイコーンは目に見える勢いでシールドゲージが削れていき、無くなると同時に爆発。

 自分の周囲と部屋のあちらこちらに火を振りまいて、無数の炎上地域を作り上げる。


「くそっ、火が有効ではあるが、それ以上に危険すぎるな。完全に挙動が爆発物のそれじゃねえか」

『ブブ!』

≪生物系マテリアル:木を1個回収しました≫

≪設計図:モロトフラックを回収しました≫

≪生物系マテリアル:木を1個回収しました≫

≪設計図:特殊弾『燃焼弾』を回収しました≫

 俺が火から逃れるように動いている間にも入手物のログが流れていく。

 予期せぬ形だが、勝利したことには違いなく、こちらの被害はほぼ無し。

 成果としては上々と言っていいだろう。

 次回以降は火を使わず、誘爆させないように注意させつつ処理しよう。


『違います!』

「ん?」

 そうして考え事をしていたからだろう。


『まだ敵は居ます! トビィ!!』

「なっ!?」

 ティガの警告の意味が俺の想像していたものとは違うと気づいた時にはもう遅かった。

 その時には既に銃声が響いていて、俺の背負うモロトフラックに弾が突き刺さり、俺の体に少なくない衝撃が伝わっていた。

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