30:パープルオーク
「ブヒッ」
「ブッ」
「ブゴウ」
パープルオーク三体との戦闘が始まる。
先制は部屋に入ると同時に、俺が盾持ちのオークに向かって直線軌道で投擲した火炎瓶なのだが……。
迎撃された。
それも岩の球体を持つオークが、飛んでいる火炎瓶に球体を投げ当てるという行動でもってだ。
そして、残り二体の行動も早い。
盾持ちの方が僅かに前に出る形で、盾持ちと剣持ちが並んで、火炎瓶による炎上範囲を避けつつ、こっちへと駆けて来ている。
「この頭の良さは驚きだな」
『ブン。拙いですね』
なので俺は素早く後退。
こちらに有利な場所であろう通路へと逃げ込む。
そして、後退しつつ通路の入り口に向かって火炎瓶を投擲。
部屋の入口を潰すように炎上させることで、オークに侵入を躊躇わせる、あるいは多少なりともダメージを与えられるようにする。
したのだが……。
「ブゴアアアッ!」
「ブッヒヒ!」
「おいおいマジか」
盾持ちが地面を擦るように盾を構え、そのままの状態で直進することによって一時的に炎上範囲を削り取り、ほぼ無傷の状態で通路へと進入。
剣持ちもその後にぴったりとくっついて進むことで通路へ入ってくる。
いや確かに、モロトフラックの火炎瓶の炎上は、瓶の中の液体が燃えるからだ。
だから盾で避けてしまえば一時的に炎上範囲を削り取れるのは分かるが……そこまで頭がいいのは想定外だ。
「ま、その方が面白くはあるか」
「「ブゴォ!」」
俺はさらに後退。
部屋の中に残っているであろう投擲持ちが支援できないであろう位置にまで下がる。
ついでにさらにもう一回、盾持ちと剣持ちの間に落ちるように火炎瓶を投げてみる。
が、こちらは剣持ちがコンパクトに剣を振って通路の壁に弾き飛ばし、防がれる。
そして二体のオークは狭い通路を綺麗に、こちらよりも速く、俺の方へと迫ってくる。
「……」
『トビィ?』
盾持ちは右手に岩の盾、左手に岩の槍。
剣持ちは右手に銅の直剣。
二体のオークの位置には若干左右のばらけがあり、左右から同時に刺突による攻撃を仕掛けられるだろう。
そして岩の槍なら即死はしないだろうが、銅の剣とオークの太い腕ならば一撃で岩の胴に穴を穿って核を破壊することは可能であると判断する。
ああそれから、岩の盾によるシールドバッシュも即死の可能性ありか。
もしかしたらだが、オークと言うのは普通なら遠距離武器によって何とかするような相手なのかもな。
なお、足音を聞く限り、投擲持ちはまだ部屋の中に居ると判断する。
「こうするか」
「「ブヒィ」」
後退と思考終了。
盾を構えたまま突撃し、左右同時から仕掛けるつもりであるらしいオークを俺は正面から見据える。
「ブヒィ!」
岩の盾が突き出される。
「此処で……」
「「!?」」
俺はそれを右前に向かって転がる事によって回避。
盾持ちの左腕の下の空間に潜り込む。
オークたちにとってこの位置は厄介だろう。
なにせ、どちらのオークから見ても、仕掛けるためには一動作余計に必要になるのだから。
「こうして!」
「ブギョオッ!?」
「ブヒッ!?」
そして、その一動作こそが俺に欲しい時間。
俺は膝立ちになりつつ左腕を全力で振りぬいて、盾持ちのアキレス腱を殴打。
で、盾持ちが痛みを訴えつつも転倒しないように堪えている中で左手を握りしめ……。
「ぶん殴る!」
「ブギョオオオッオォ!?」
俺を攻撃するべく一歩引いた剣持ちのオークの右手親指を狙い、飛び込むような勢いで全力の左ストレート。
指をへし折って、剣を落とさせる。
「趣味じゃねえんだが、状況が悪すぎから仕方がねえな!」
「「!?」」
『ブブ!?』
そこから腰を回転させて、右手でオークが手放し、宙にある剣を持つ。
で、そのままさらに腰を回転させ、右腕を振り上げ、盾持ちの背中を切りつける。
剣は盾持ちの心臓は切っていないのが、肺にまでは確実に届いているので、致命傷でいいはずだ。
「さて、これでとりあえずは一対一、おまけにお互いに殴り合うしかないな」
「ブヒィ……」
が、倒したわけではない。
なので倒れた盾持ちから素早く距離を取りつつ、剣自体は遠くへと投げ捨てておく。
ちなみにこの手の奪った武器は、元の持ち主が死ぬと失われるらしい。
それは後で知った事だが。
「ブゴオオッ!」
残った元剣持ちオークは一瞬躊躇った後、両腕を上げて突っ込んでくる。
念のために頭を素早く回して後方確認。
投擲持ちが他の部屋経由で回り込んできているようなことはない。
奥も確認。
こちらも同様。
じゃあ好きにやっていいな。
「ブゴオォ!」
「ははっ……はははははっ! 剣を使わされた分だけ殴らないとなぁ!!」
『ブブ……そういう思想ですか……』
オークが掴みかかろうとしたのを回避して、腹にパンチ。
やはり、分厚い脂肪に覆われているな。
なので、脂肪が比較的薄い脇腹に一発加えた上で後退。
「ブッゴゴオッ!!」
「ははっ! いい強さだ!!」
が、相手の前進スピードの方が速い上にタフでもあるため、オークの拳……いや、張り手が俺の頭を叩く。
その衝撃はすさまじく、岩で出来た頭が明確に欠けた上に、視界も一部失われている。
これは早々に決着をつけないと普通に殴り殺される。
「ブゴウウッ!」
「だが……」
そう判断した俺はオークの次の攻撃を紙一重で避けた上で……相手の顔面、目へと指を突き入れて視界を奪う。
「ブギイィ!?」
その上で顎を掴んで引いて、体勢を僅かに揺らがせ、その上で全身を使って引きずり倒す。
で、さらには首めがけて跳んで、全重量をかけた踏みつけによって首にダメージを与えるが……死んでないと判断。
そのままオークの後頭部めがけて何度も拳を振り下ろし、始末。
「ブッゴウ!」
「っう!?」
『ビイイィィ! 左腕損壊。現地ラボでなければ直せません』
ただ、時間をかけ過ぎたらしい。
立ち上がろうとした俺の左腕が飛来した岩と衝突。
その一発で俺の左腕、肘から先がもげる事になってしまった。
「おうっ……そう言えば、まだ一体居たな」
「ブウゥゥヒイィィ……」
俺は地面を転がりながら立ち上がる事で、続けて飛んできた球体の岩を回避しつつ体勢を立て直す。
さて投擲持ちオークの弾は……後数発程度か。
「ブゴアアアッ!」
「投擲も射撃、正面からならどうとでもなる」
弾切れまで粘ってもいいが、ゴーレムの武装と同じで弾の補充方法がある可能性もある。
また、投擲も射撃であるらしく、認識加速は発動している。
なので俺はオークの投擲を避けつつ素早く接近。
で、接近さえ出来てしまえば、後はもう先ほどと同じだ。
「これで……」
足を踏んで怯ませる。
「ブヒッ!?」
腹を殴って更に怯ませる。
「終わり……」
オークの足を踏んでいる足を軸に全身の関節を回転させ、横に回り込みつつオークの後頭部を裏拳で強打。
「!?」
続けて、前方に向かって倒れこみつつあるオークの後頭部を掴み、両足を地面から離して……。
「だよっ!!」
「!!?」
元剣持ちに叩き込んだものよりもさらに強烈な一撃を……坑道の地面にオーク自身の重量も載せた状態で顔面から突っ込ませた。
「ふぅ……危ない危ない……。想像の数倍ヤバい相手だった」
『ブン。本当にお見事です。トビィ』
≪設計図:オークレッグを回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨を1個回収しました≫
俺はオークたちの死体が消えるのを確認しつつ、ゆっくりと立ち上がる。
うん、流石に危なかった。
剣を奪って使う羽目にもなったしな。
「オークレッグか……今の戦術ならありかもな」
『そう言えばトビィ。トビィは剣もマスケット銃のように……』
「練習のために使う事はある。ま、素人剣術だから、大抵の姿勢で刃筋を立てて振れるだけだけどな」
『……』
体のコリをほぐすように俺は両腕を回す。
さて、左腕は駄目になってしまったが、フロア3に向かうとしよう。
02/10誤字訂正