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29:銅のマテリアルタワー

「分かってはいたが、ほぼ手つかずか」

『ブーン? 分かっていた事なんですか?』

「分かっていた事だろ。俺とフッセはフロア2に同時に入った。そして、俺が一戦、恐らくはフッセも一戦終えたところで、先ほどの戦闘。だったら、フロア2そのものは手つかずになっているのは当然だろうさ」

 フロア2の探索を始めた俺は複数のマテリアルタワーとレコードボックスを発見した。

 マテリアルタワーの方は、岩、粘土、緋炭石をとりあえず見つけたので砕いた。

 レコードボックスは……。


≪設計図:オークボディ≫

≪設計図:ナックルダスター≫

≪設計図:特殊弾『硬化』≫


「ふうん……」

 相変わらず偏りがあるな。

 オークボディはスコ82のオークがどういう魔物なのかが分からないので、選ぶのは微妙に怖くもある。

 だが、オークと言うのは大抵の作品で物理偏重の魔物であり、俺の戦闘スタイルとの相性は悪くないだろう。

 ナックルダスターは殴るための武器だ。

 握った状態で殴る事で、素手で殴るよりも強く、また、手を傷めずに殴る事が出来る。

 特殊弾『硬化』は……なんだろうな?

 特殊弾の一つなのは分かるのだが、弾を硬くして威力を増すのか、撃った相手を硬くするバフなのか、選ばないと分からないものだな。


「まあ今は確実に強化が進む方向で、装備を充実させるのを優先だな」

『ブン。そうですね』

≪設計図:ナックルダスターを回収しました≫

 という訳で今回はナックルダスターを選んでおく。

 無難な選択だが、今はこれでいい。


「さてお次は……銅のマテリアルタワーか」

『ブン。その通りです』

 次の部屋。

 俺が見つけたのは、金属光沢を有する表面を持った、銅色、塔状の金属塊。

 手をかざして表示されたのは、接触回数二回、時間は三秒と言う非常に厳しい制限だった。


「……」

『ブーン? どうしましたか? トビィ』

「いや、いずれはマテリアルタワーでの採取制限や採取量に干渉する装備やら特殊弾やらが出てきそうだなと思っただけだ」

『ブン。そうですか』

 銅の段階でこれとなると、鉄やそれ以上の金属のマテリアルタワーとなったら、もっと厳しい制限になりそうな気がする。

 そうなると今の俺では手も足も出ない事になってしまうし、何かしらの解決策は存在しているに違いない。

 やっぱり、次はソロで潜って、そう言った今後のために必要な諸々を充実させた方がよさそうだな。


「ま、今は殴るしかないし殴るか」

 とりあえず銅のマテリアルタワーは殴った。


≪鉱石系マテリアル:銅を5個回収しました≫

「いややっぱりきついわ。うん」

『ブブ。むしろよく手を壊す可能性があるのに、一切躊躇わずに殴れましたね……』

 そして、散々な成果だった。

 パーツ一つ作れない量しか取れなかったのに、殴りつけた両手がヒビだらけになって、岩のマテリアルを消費しての修復が必要になってしまった。

 まあ、銅と岩なら銅の方が強いと思うので致し方ない結果か。


「自分より圧倒的に硬いものを殴りつけるのも、それはそれで悪くないからな」

『あ、ブン。いつものトビィですね』

 それでは次の部屋に向かうとしよう。

 そろそろ次のフロアに向かうためのエレベーターが見つかってもおかしくはないはずだ。


「「「ブヒブヒ……」」」

「おっと、魔物か」

『ブン。パープルオークです』

 次の部屋には、紫色の表皮を持つ、豚の頭、脂肪と筋肉の両方が良く付いた体を持つ魔物が三体居た。

 豚人間……オークのようだ。

 俺は通路から、気づかれないように注意を払って、パープルオークたちを観察する。


「力士体形って奴だな。戦士の理想形の一つだ」

『ブン。流石はトビィ。惑わされませんね』

 パープルオークの頭は豚そのままで毛はほとんどなく、なのでオークが猪ではなく豚モチーフなのがよく分かる。

 頭から下は首も含めて、とにかく太く、柔らかそうだ。

 しかし、皮は弛んでいなくて、張りがある。

 恐らくは分厚い筋肉の鎧の上に厚い脂肪の層があるのだ。

 身長は2メートルと少し。


「当然だろ」

 このタイプは……強い。

 見た目だけだとデブだと嘲り、油断する連中が少なからず居る体形だが、オークのそれは敢えてそういう方向に成長させた肉体であり、不摂生の結果としてなったものとは根本から違うもの。

 大量の筋肉から繰り出される一撃は速くて重いし、脂肪の鎧は筋肉だけの体とは比べ物にならないぐらいにタフ。

 恐らくだが、これまでに俺が遭遇した雑魚の魔物の中では、最強の部類に入る事だろう。


『それで挑むのですか?』

 おまけに奴らは道具を扱える。

 防具は急所防御用っぽい胸当て、腰当て、首巻、額当てだけだが、武器はその太い腕と指でも扱えるものを持っている。

 一体目はその巨体を八割程度隠せそうな大きな盾と槍、どちらも岩製。

 二体目は直剣で、しかも銅製。

 三体目は投擲用と思しき、球形に加工された岩を複数個、腰に提げている。

 わざわざこの組み合わせをしているのなら、連係プレイもしてきそうだし……相当強そうだな。


「勿論挑むとも。仮にエレベーターが部屋の中になくても挑むとも」

『ブブ。トビィならそう言うと思っていました』

 だからこそ面白い。

 俺はモロトフラックから火炎瓶を取り出すと、部屋の中に踏み込み、とりあえず盾持ちに向かって投げつけた。

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