28:『デビュー』のフッセ
「行くぞオラァ!」
「近づけると思わないでいただきたいですわね!」
俺とフッセの間にある距離は10歩分程度。
フッセは既にマスケット銃を構えており……引き金は今引かれた。
「さ……」
フッセの二本のマスケット銃から礫が放たれる。
その行き先は右目と胸の真ん中……核に向かってくるコース。
狙って撃っているのなら、いい狙いと言えるだろう。
「あ……」
対するこちらは、フッセの発射の瞬間を認識したことで認識加速が発動。
目に見える程度にまで礫の速さが落ちた世界で、それ以上に速度を落としている体の各部を動かす。
つまり、頭を少しだけ左に傾けることで右目狙いの礫は回避。
胸を狙ってくる礫の前には右手を置き、防ごうとして……直前で防ぐのではなく弾く方向にシフトし、裏拳で礫を横から叩いて軌道を反らす。
「防げるものなら……っ!?」
「見えているなら所詮は単発! 対処は出来るんだよ!」
認識加速終了。
フッセの礫は俺の右手の甲と右目横を浅く削ると、俺の後方へと消えていく。
「そら、今度はこっちからだ!」
「っ!?」
そうして裏拳を打つために動かした勢いのまま右手をモロトフラックまで移動。
火炎瓶を取り出すと、返す動きで火炎瓶をフッセに向かって投擲。
知っていたのか、あるいは岩の瓶から漏れ出る炎を見て効果を察したのか、自分に向かってくる火炎瓶を見たフッセは迎撃ではなく回避を選択。
素早く横に一度……いや、地面について、割れて、広がり始めた火を見て二度、地面を転がって効果範囲外に逃げ切る。
「火炎瓶とは野蛮ですわね!」
そうして転がり終えると立ち上がる事なく、しゃがんだ姿勢のまま、フッセは両方のマスケット銃を発射。
狙いは俺の右脚の膝と左脚の足首。
動きを止めるのが目的であり、やっぱり正確に狙ってきてやがるな、これ。
「ははっ! 野蛮で結構!」
俺は回避のためにギリギリまで引き付けた上で跳躍。
膝を折り曲げ、地面から離れた事に伴う自重の増加も考慮して飛んだので、無事に礫は俺の下を通過し、地面を削り飛ばす音が後方でした。
で、左肩から設地し、前方回転で一気に距離を詰める。
これによって俺とフッセの距離は十分に縮まった。
「おう……らぁっ!」
「っう!?」
なので俺は起き上がりつつ右腕を振るい、フッセの顔面を殴り飛ばそうとした。
が、回避ではなく防御を選んだフッセはマスケット銃のグリップ部分で俺の拳を受け止め、喰らった衝撃を殺すことなく後方回転することで、ダメージを減らしつつ距離を取った。
「なるほど。武器を持っていないのではなく、武器を必要としない輩ですの。危うく私様の美しい顔がへこまされるところでしたわ」
「ははっ! だったら、イメージしてしまった通りにへこませてやるよ!」
俺は即座に距離を詰め始める。
火炎瓶しかない俺と、最低でも二丁のマスケット銃を持つフッセでは、距離があればあるほどフッセが有利になるからだ。
「話に興じるつもりがないだなんて本当に野蛮ですわね」
「あれだけ狙いすました射撃が出来る奴相手にお喋りなんて悪手を打つ気はねえよ!」
フッセもそれは分かってる。
だから俺を近づけさせないように、俺の脚に向かって撃ってくる。
「お褒めに預かり光栄ですわー! 自分で自分を褒め称えるのも良いですけれど、やっぱり他人に褒めていただくのは快感ですわねぇ!!」
はっきり言って認識加速が始まってから回避し始めたのでは遅い。
なので俺はフッセのマスケット銃を見た。
マスケット銃の銃口の先、マスケット銃の引き金にかかるフッセの指、これらを見た。
それらを見て……。
「うっせぇ! 褒めてねえよ!」
認識加速が始まる前から避け始め、脚の側面を礫が通り抜けていくように足を動かし、回避と前進を両立させる。
「おーっほっほ! ツンデレと言う奴ですわね! それはそれとして、認識加速前から避け始める貴方の実力も褒め称えてあげますわ! 私様は他人を褒める事が出来るという美点持ちの女ですから!」
やっぱりフッセの腕はかなりいいな。
俺が認識加速前から避け始めているのをしっかりと見ている。
だがそれはそれとして負ける気はない。
「誰がツンデレだ!? ああんっ!?」
火炎瓶を投擲。
ただし、投げるのは左手であり、全身の関節を適切に回すことで、一度目とは比較にならない速さ、最低限のモーション、直線軌道で叩き込む。
「はや……っう!?」
フッセの上半身に火炎瓶が直撃、炎上、怯む。
だがゴーレムに火はそこまで有効ではない。
なので先ほどの投擲モーションの逆回しをしつつ接近して……。
「うおらあっ!」
「!?」
フッセの胸に向けて拳を叩き込む。
「ぐっ……。ふっ、ふふふ……やりますわね……」
俺の攻撃を受けたフッセはやはり衝撃を殺さず後ろに転がっていくが……甘い。
これまでのやり取りでフッセの後方にあるのは岩壁だ。
それ以上後ろに下がれず、それどころか全身を激しく打ち付ける。
逃げ場がない事を悟ったのだろう。
火は収まったものの、胸にひびが入っているフッセは笑みを浮かべ、マスケット銃を構える。
「お前もな」
だが、フッセはまだ勝負は諦めていない。
なので俺は油断なく少しずつ接近し……。
「勝つのは私様ですわ!」
フッセのマスケット銃から放たれた、俺の胸に向かう二発の礫を左腕で受け止めて防御。
「勝つのは俺だよ」
「!?」
そのままの姿勢でタックル。
素早く右ストレートをフッセの胸部に向けて放ち、その衝撃でもってフッセの核を破壊した。
「お見事ですわ……でも、次は私様が勝たせていただきますわ。おーっほっほっほ!」
「来い。返り討ちにしてやる」
そうして捨て台詞と共にフッセの操っていたゴーレムは消え去っていき……。
≪『デビュー』のフッセを撃退しました≫
≪『デビュー』のフッセが所有していたマテリアルと緋炭石が移譲されます≫
≪設計図:ラミアアームRを回収しました≫
「よしっ」
『おめでとうございます。トビィ』
勝利のアナウンスが流れた。
うん、フッセは実に強敵だった。
そして……。
「しかし、濃いキャラだったな……」
『ブブ……。トビィがそれを言うのですか……』
少し呟きながらフロア2の探索を再開した。
ちなみに使い捨てキャラではありませんわよ。