26:予測と死への罰
「現地ラボだな」
『ブン。現地ラボです』
エレベーターが着いた先は現地ラボだ。
ただ、入ると同時に妙な表示が俺の視界に飛び込んできた。
≪坑道予測機能が解放されました≫
≪次回の現地ラボはフロア3.5になります≫
「ティガ。説明」
『ブン。こちらに文章はまとめてあります』
俺はティガから文章を受け取り、目の前の表示と合わせて読み解いていく。
で、読み解いた結果をまとめるならばだ。
「ふうん、第二階層と第三階層……いや、フロア2とフロア3の基本構成は坑道のまま。しかし、出現する魔物は何が出てくるのかまるで分からない状態。バーサスモードなので他のプレイヤーが現れる可能性あり。次の現地ラボはフロア2のエレベーターを降りた先ではなく、フロア3のエレベーターを降りた先であり、そこまで本格的な修理を行えない。まとめるならこんな感じか?」
『ブン。そうなりますね』
まあ、長い事になった。
自分で言っていて眠くなりそうだ。
だが、重要な案件なので、きちんと一つずつ噛み砕いていこう。
「フロア2と3の基本構造が坑道表記という事は、逆説、この先には坑道以外の環境があるという事でもあるよな」
『ブーン。データ不足なのでお答えできません』
その一。
基本構成が坑道なんて話が出てきた以上、坑道ではない環境……天然物の洞窟や露天掘りの現場、あるいはもっとファンタジーな空間が、この先出てくるかもしれない。
俺が未体験であるためにティガは教えてくれないが。
「フロア2にゴブリン、フロア3にパイコーンが出現することは確定。けれど他はどんな魔物が出て来るかは分からない。まあ、新規の魔物という事だな」
『ブン。ただ、データ不足なので、予測はできません』
その二。
出現魔物の予想と言う欄には、フロア2だとゴブリン、フロア3だとパイコーンの名前が記されているが、その下には複数のクエスチョンマークが並んでいる。
つまり、フロア2にゴブリンは出てくる。
だが、どんな武器や防具を身に着けて来るかは分からないし、どれほどの数で現れるかも不明、最も重要な色についても当然分からない。
こうなると、現状だと心の準備を予めしておけるくらいだろう。
「他プレイヤーについては……」
『ブン。資料はまとめてあります』
「おう、ありがとうな」
その三。
他プレイヤーについては、本当に出て来るかも含めて不明なので、気にしない。
「次のラボまで2フロアあるってのが気を付けないとな。フロア2で修理できないほどに破損したら、フロア3が破損したまま攻略しないといけなくなる。最悪詰みだ」
『ブン。注意するべきでしょう。なお、今回は2フロアですが、坑道によってはもっと長い期間現地ラボがない場合もあり得ます』
「だろうなぁ……」
その四。
次のラボまで距離がある点については、よく覚えておくべきだろう。
立ち回りが大きく変わってくる要素になる。
今でもそうだと言えばそうなのだが、被弾前提の立ち回りは控えるようにするべきかもしれない。
「しかしこれが現地ラボの役割でもあるって事か」
『ブーン? 分かりますか?』
「分かるとも。今はデータ不足だから、十全に生かすことは出来ないけどな」
では何故こんな情報を現地ラボで見られるのだろうか。
考えるまでもない。
ここで先の情報をきちんと取得しておき、それに合わせてゴーレムの構成を変更、特殊弾の補給を行う事によって、上手く立ち回れとゲーム側が言って来ているのだ。
恐らくだが……いずれは事前に対策を整えておかなければどうしようもならないような環境や魔物も出てくるに違いない。
そうなった時に現地ラボを上手く使えなければ、酷い事になるのだろう。
「ま、今は死に戻りを覚悟の上で各種データと設計図を集めていくしかないな。そもそも胴体と脚部がビギナーのままなのが、今の俺なわけだし」
『ブーン。そう言えばデスペナルティについての説明をしましたか?』
「してないな。後、ティガ。お前なら説明したかしてないかくらいは分かってるだろ。ジョークとしてはいまいちだぞ」
『ブブ。文章出しておきます』
それではついでにデスペナルティについても確認しておこう。
えーと、失われるのは……収集データと設計図を除くほぼ全てか。
とりあえずインベントリのアイテムは全部無くなるし、各パーツに装填しておいた特殊弾も失われる。
で、ラボに戻された後は、頭部、胴体、右腕、左腕、脚部のパーツが岩で製作された状態で戻ってくると書いてあるから……突入時点で岩以外で作っているパーツがあれば、その分のマテリアルが失われるとも言えるな。
存外重いか?
いやしかし、緊急脱出手段そのものはチュートリアルを終えた時点で全員持っている。
だったら、そこまで重くもないのか。
「これ、どこかで効率のいいマテリアル稼ぎの類もしたくなる奴だな……」
まあ、設計図が失われない時点で致命的な喪失はあり得ないし、ほどほどと思ってもいいかもしれない。
「よし、確認終了。次のフロアに行くぞ。ティガ」
『ブブ? 設計図、粘土や肉のフレーバーテキストなどの確認はいいのですか?』
「後回しでいい。作る予定もないし、殴った感触でだいたい分かってるしな」
『ブーン。そうですか』
では、次のフロアに向かうとしよう。
俺は自分が万全の状態であることを確かめると、次のフロアに向かった。