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24:粘土のマテリアルタワー

『それはそれとして。先ほどの戦闘は鮮やかでしたね』

「そうだな。ま、最初の投擲が上手くいったから、当然の流れだけどな」

 俺は先ほどまでパープルハウンドが居た部屋を多少の警戒をしながら見渡す。

 こんなチュートリアルを終えたばかりの序盤から居るとは思えないが、今後も隠密行動や不意打ちに特化した魔物が居ないという保証はないので、今の時点からある程度の習慣づけをしておくための警戒だ。


『ブーン? どういう事ですか?』

「モロトフラックで生成された火炎瓶は割れると、周囲に油を撒いて、しばらくの間燃え続ける。それはつまり、火で焼かれることを相手が嫌う限り、相手の進入を阻む壁が生成されると考えていい。事実、パープルハウンドたちは火の中に飛び込むことを嫌った」

 何も居ない。

 音無し、臭い無し、空気の揺らぎの類も無し。

 極々普通の部屋と称される広い空間だ。


「ではここで、火がある場合と火がない場合のパープルハウンドたちの動きを想像してみようか」

『ブーン。ああ、結構な差がありますね』

「そうだ。かなりの差がある。火が無ければ、パープルハウンドたちは自由に動き回れる。同時、時間差、複数方向、一方向、攻撃の組み合わせについては幾らでもある事だろうな。だが、火と言う壁があれば? 合流しようとするならば、無視できないレベルの時間を必要とする。仕掛けてくる方向も限定的になる。実際に攻撃する際に、飛び掛かってくる場所も限られるだろうな」

 部屋に何もない事を確認した俺は、複数ある通路から一本を選んで、次の部屋へと向かう。


『ブン。そうして絞られているなら、対応は容易、という事ですか』

「そういう事だな。特に今回は最初の投擲で相手を二方向に分けられたことも含めて、とにかく上手くいった」

 次の部屋にあったのは緋炭石のマテリアルタワー。

 手をかざしたところ、3回、10秒で変わらないようだ。

 という訳で、殴って叩き壊す。


≪特定物質:緋炭石を27個回収しました≫

「いやー、しかし、モロトフラックは思っていた以上に便利そうだ。これだから投擲物はサブウェポンとして最良の部類なんだ」

『ブーン? トビィは投擲物は好みなのですか?』

「殴るほどじゃないが好みだな。特にモロトフラックのようなタイプは良いと思ってる。こいつで焙るのは、殴られない位置から一方的に攻撃してくるとか、拳で壊すのが億劫になるような堅い外殻持ちとか、そういう連中に対して対処がしやすくなるからな。具体的に言えば、近づいて殴るための隙を作りやすくなる」

『ブブ……本当にぶれないですね。トビィは』

 では次の部屋。

 えーと、今度は岩のマテリアルタワーと、見慣れないマテリアルタワーがあるな。

 とりあえず岩のマテリアルタワーから対処してしまおう。


≪鉱石系マテリアル:岩を20個回収しました≫

「ぶれるわけがない。子供のころから俺はこうで、俺はこんな俺を受け入れている。今更、他人にどうこう言われた程度でぶれるような事はないさ。最終結論は何時だって、殴りたいものを殴り飛ばせばいい、これで固定だ」

『ブン。そうですか』

 うーん、第一坑道・レンウハクの時と同じように殴っていると思うのだが、緋炭石に続いて岩の方でも入手できるマテリアルが少ないな。

 これ、第二坑道・ケンカラシになったことで、何かしらの補正がかかっていたりするか?


「さて、パープルハウンドとの戦闘に関係する話はこれぐらいにしておくとして……これもマテリアルタワーなんだよな。ティガ」

『ブン。マテリアルタワーです』

 俺は見慣れないマテリアルタワーをよく見てみる。

 第一印象は土だろうか?

 僅かに赤が混じった茶色い土が積み重なって、塔のようになっている。


「土……いや、粘土か? 適度な湿り気と粘り気を有している感じか」

 だが、ただの土と言うには、含まれている空気が少なく、目が締まっている感じがある。

 となれば土は土でも粘土になるのだろう。

 クレイゴーレムと言えば、岩製、煉瓦製のゴーレムと同じくらいにはメジャーな存在であろうし、マテリアルが存在していてもおかしくはないだろう。


「とりあえず殴るか」

 接触制限は回数は5回だが、時間は8秒と短い。

 つまり、一発叩き込んだ後の四発は、一発辺り2秒以下で打ち込む必要がある。

 となれば、素早く攻撃を叩き込むことを優先した方がよさそうだ。

 そこまで考えてから俺は動き出し……。


≪鉱石系マテリアル:粘土を8個回収しました≫

「あー、何と言うか伸びなかったな。衝撃を上手く吸われた感じがある」

『ブブ。そうですね。トビィの拳はマテリアルタワーを変形させる事に力の大半が注がれていて、分離させる事に力が向いていなかった感じがあります』

 結果は御覧の通り。

 岩に比べると、あまりダメージが伸びなかった。

 恐らくだが、衝撃に対して変形することで強い耐性を有するというのが、粘土と言うマテリアルの性質だったのだろう。

 うーん、この分だと、今後他のマテリアルタワーが出てきた際も適切な採掘方法を考える必要があるかもしれないな。


「ま、手に入らなかったものは仕方がない。次に行くぞ」

『ブン。分かりました』

 俺は次の部屋へと向かう。

 で、部屋の入り口から見えたのは……。


「「「グルルルル……」」」

「おっと、こいつは油断しているとまずいな」

 三体のパープルコボルト。

 正確には、岩の盾と銅の槍を持ったもの、銅の刃の剣を持ったもの、岩の矢じりを付けた弓を持つもの、異なる武器を手にした、三体のパープルコボルトだった。

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