18:街坑道・ヒイズルガ
本日二話目です。
≪街坑道・ヒイズルガに到着しました≫
≪フレンドリストにアクセスできるようになりました≫
≪坑道探索にマルチモードが追加されました≫
≪坑道探索にバーサスモードが追加されました≫
≪坑道探索にカオスモードが追加されました≫
≪称号『デビュー』が与えられます≫
「あ、トビィ。解放されたものについてのまとめを文章にまとめておきますので、後で見ておいてください」
「流石ティガ。じゃ、そうさせてもらうわ」
街坑道・ヒイズルガに到着すると同時に色々と表示された。
が、これを聞いていたら俺が眠るのがティガには分かったのだろう。
何が解放され、どういう事が出来るようになったのかについて、文章でまとめてくれた。
まあ、詳しくは街を見終わってからでいいだろう。
「で、此処が街坑道・ヒイズルガなのは分かっているんだが……坑道っていうサイズじゃないだろ、これ」
「ブン。実際広いです。広いですが、此処は交流と休息の場所ですから」
俺はエレベーターの外に出ると周囲を見渡す。
俺が今居る場所の周囲には、10階建て前後のビルが立ち並んでおり、通りに面した1階部分には有名チェーン店が入っている。
どうやら少量のSCを払う事で、現実と同じ味の品物を食べる事が出来るようだ。
尤も、腹が満たされるわけではないので、此処ではあくまでも味を楽しめるだけだが。
で、問題はビルの先。
「ですが、坑道なのも事実です。ですから、岩の壁が遠くに見えるのです。空もある種の立体映像ですしね」
「立体映像ねぇ……まあ、ゲームなんだし、その辺は何でもありと言えばありではあるか」
俺が見つめた先には天まで続く岩の壁が聳えている。
しかも、よく見れば岩の壁は少しずつ湾曲していて、この街坑道・ヒイズルガと言う空間をドーム状に覆っているようだ。
で、それを一見して分からないように、天井には何かしらの技術によって青空が投影されており、俺たちが居る場所までどこからともなく太陽光が降り注いでいる、と。
つまり、ここ街坑道・ヒイズルガは、岩のドームの中に作られた特殊な空間という事か。
うーん、壁を軽く殴ってみたいな。
色々と分かりそうな気がする。
「さてトビィ。街坑道・ヒイズルガについて少しだけ説明を」
「手短に頼むぞ」
「ブン。と言っても、大した説明ではありません。街坑道・ヒイズルガは五つのエリアに分けられている、と言うだけの話ですから」
さて、ティガの話によれば、街坑道・ヒイズルガは五つのエリアに分かれている。
だが、分かれていると言っても、五つの内の四つは、中身については変わらないフリースペースのようなもの。
俺が今居る此処と同じように現実のチェーン店が入っていたり、いずれプレイヤーたちが店を開くための空間であるようだ。
「外見の違いか。なら、俺が落ち着く場所を探すのもありか」
「ブン。それでよいと思います」
だが外見は違う。
具体的に言えば、今、俺が居る西エリアは現代建築が集まったビル街。
南は昭和レトロと言われるような建築。
東は江戸時代の建築。
北は人の手がほぼ入っていない自然そのまま。
と言う風になっているらしい。
「ところで中央の行政区には向かわないのですか?」
「今は行ってもなぁ……」
で、唯一中身も違うのが中央の行政区。
現代建築のビルよりもさらに高い、天井に着くほどの高さの塔だ
そこには色々と施設が入っているらしいが……プレイヤー的に最も重要な施設となると、決闘坑道・コロマスンだろうか。
そこでは合意したプレイヤー同士による決闘……要するにPvPが可能であるらしい。
また、PvPは第三者が見ることも可能であり、いずれはとても盛り上がる事になるだろう。
「まだ、どのプレイヤーの構成にも差らしい差がないし、実力のあるプレイヤーだって自分の好む構成に出来ていない。大して盛り上がりはしないだろう」
「ブーン。まあ、そうですね。今はまだ第一坑道・レンウハクの攻略を終えていないプレイヤーの方が多いぐらいですしね」
が、今はまだ早い。
殴り甲斐のある相手も居ないだろうし、行く必要はないだろう。
なお、決闘坑道・コロマスンでは、これまでに自分が倒した魔物と戦ったり、構成の試しも出来る。
そういう意味でも重要な施設になるのだが……そちらの意味でも、やはり今はまだ行く必要が薄いだろう。
「さて、これから暫くは待つか」
「例の友人ですね」
「そうそう。さて、アイツはどれぐらいかかるか……あの悪癖が出なければ一時間とかからないはずなんだが……」
そうして会話をしている間に俺は西エリアから北エリアに移動。
周囲はビル街から、自然公園のような場所に変化していく。
そこは森も、草原も、湖もある、自然溢れる場所だ。
だが、虫も獣も居なければ、風も水も流れていないので、自然にあるべき音が一切ない、不自然さにも溢れている。
整備は敢えてされていないか、最低限。
人影はビル街よりも明らかに少ない。
「おっ、ちょうどいい木があるな」
で、歩くこと暫く。
俺は周囲を小さな水場に囲まれた小島の中央に、一本の木が真っすぐ生えているのを見つける。
「なあティガ。暴力沙汰は問題だが、木を殴るぐらいなら大丈夫だよな?」
それはとても殴り甲斐がありそうな木だった。
手ごろな太さの幹に、程よい硬さを持っていそうな樹皮だ。
周囲を見ても、殴るのに邪魔な位置に枝はないし、腕を振り回すのに邪魔な他の木もないし、脚を動かすのに支障があるような狭さや障害物もない。
殴ったらとても気持ちよさそうだ。
「ブブ。望ましくはありませんが、問題にはなりません」
「ようし! じゃあ殴ろう! 直ぐ殴ろう! どうせアイツが来るまで暇なんだから、殴りまくっていよう!」
俺は水場を飛び越えて小島に渡ると、木へ拳を叩き込んだ。
01/30誤字訂正