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17:アバター着替え

本日も四話更新となります。

こちらは一話目です。

「称号は……プレイヤー間でやり取りをする時に表示されるだけ。効果の類はなしか」

「ブン。トビィの言う通り、称号に効果は一切ありません。ただのコレクション要素ですね」

 称号についてはどうやら特に気する必要はないらしい。

 今はとりあえず『ヒヨッコ』にしておくか。


「アバターパーツは……ゲーム内通貨であるSCが必要になるのか。じゃあ緋炭石を売るか」

「ブン。ちなみにSCは略称であり、正式名称はストレインコインになります」

 続けてアバターパーツだが……アバターについてはハウジング要素の類であり、しかもスコ82と言うゲーム的にはそこに拘って足を止めてほしくないのか、どれもこれも安い。

 ただ俺としては……割と拘る部分なので、目的に沿うものを探して、購入して、着用する。

 ちなみに緋炭石は1個100SCで売れた。


「そう言えばこのSCって奴が現実のお金に変換できるんだったか」

「ブン。現在のレートは100SC=1ドルです。一月に1000ドルまで交換可能です。また、現実の為替市場と連動しますが、お望みの通貨で交換することが可能です」

「そりゃあまたとんでもない機能で」

 俺から振った話であり、事前に知っていた話でもあるが、実にきな臭い話が出てきた。

 ゲーム内通貨が現実の通貨に交換可能と言う時点で相当ヤバい。

 しかも相手がドル?

 これでドルがドルでも安いドルならワンチャンあり得なくもないかもしれないが、ティガが提示しているのは、あの超大国様のドルだ。

 確実にヤバい。

 おまけに現実の為替市場を参照することで任意の通貨で交換可能って……ドン引きものだな。

 いったい何処からこんな金が出て来てやがる。


「交換しますか? トビィ。トビィの口座は分かっていますから、入金は簡単ですよ」

「今は止めておく。やるなら緋炭石が1000個、余剰分として手持ちにある状態になってからだ」

「ブン。分かりました」

 第一坑道・レンウハクで回収した緋炭石は約100個。

 さっきの緋炭石の売却額と今のレートを合わせたら、緋炭石1個が1ドル。

 ゲーム内で腐るほど回収が可能であるはずのアイテムが1個1ドル?

 つまり、俺はあの短時間で100ドル分の稼ぎを手にしたことになる。

 交換できる数に制限があるにしたって、明らかにトチ狂っていやがる。


「……」

「トビィ?」

「アイツがいつログインしてくるというか、どれぐらいチュートリアルにかかるかなんだよなぁ」

「トビィの友人ですか?」

「ああそうだ。スコ82をプレイしているはずなんだが、さてなぁ……」

 正直、今すぐにでも色々とぶちまけたい。

 このゲームに俺を誘ってきたアイツに感想を送り付けたい。

 が、アイツは俺ほど戦闘能力が高いわけではないからなぁ……菫キパと戦って、負けている可能性も普通にありそうなんだよな。


「悩んでいても仕方がない。アイツだってチュートリアルが終われば街に繰り出してくるだろうし、現実の方からメッセージを飛ばした後は街の方で待機しておくか」

「ブン。トビィ、現実の知り合いが相手なら、フレンド機能解放前でも、こちらからメッセージを送る事が出来ますが?」

「そいつは……」

「勿論、メッセージの秘匿性は保証されています。運営でも見られませんよ」

「そうかい」

 スコ82の運営は政府だ。

 つまり、ティガの言う通りなら、スコ82のメッセージ機能は政府でも見られないレベルの秘匿性という事になる。

 きな臭い。

 もはや、きな臭いという言葉が陳腐になるほどにきな臭い。

 信用はしていないが、便利なので、アイツとの間でだけ通用するような暗喩込みのメッセージを送るが。


「じゃ、街に繰り出すぞ。ティガ」

「ブン。お供します」

 ティガが俺の肩に留まる。

 俺はそれを確認すると、エレベーターに乗り込む。

 するとエレベーターは直ぐに上方向に向かって動き出す。

 どうやらアバターの時点で街坑道・ヒイズルガ以外への移動は出来ないようになっているらしい。


「ところでトビィ。その格好で本当にいいのですか?」

「ん? 何か変か? 俺としてはイカしていると思うんだが」

「ブーン……確かにトビィには似合っているかもしれませんが……」

 そして、データの読み込み時間でもあるのか、エレベーターの移動時間はそれなりにあるようだ。

 ティガが話しかけてくる。

 それにしても俺の格好なぁ……。


「ん? 似合っているかどうかは微妙だと思っているぞ?」

「ブ?」

「俺の目的と言うか、趣味嗜好のためには都合がいいってだけだ。この格好はな。そして、そういう意味で、イケている格好なんだ」

 今の俺の格好は先ほど買ったばかりのアバターパーツを一通り身に着けただけだ。

 つまり、上着はファー付きのロングのコートを前を開いた状態で。

 胸は適当なシャツで隠して。

 下はダメージのジーンズを、ドクロ付きのベルトで抑えて。

 靴は先端と底に鉄板を仕込んだ安全靴に近いブーツを。

 そして、銀のピアスやら、ネックレスやら、ブレスレットやら、ナイフやらを身に着け、見せつけている。

 で、俺自身の髪の毛が金髪に黒メッシュであり、口調もこれなので……。


「趣味嗜好……暴力沙汰は問題になると言っておきますよ。トビィ」

「分かっているとも。だから、俺が危ない人物だと周囲に教えるためにこういう格好なんだ。殴っちゃいけない相手を殴るわけにはいかないからな」

「ブブ……歪みがないですね。トビィは」

 まあ、見るからにそちら側の人間、危険人物であると周囲に威嚇しているわけだ。

 実際俺は色々と殴りたい危険人物であり、社会不適合者なので、むしろこう言う格好をするべきだと自認しているんだがな。


「さて、そろそろだな。行くぞ、ティガ」

「ブン。分かりました」

 では、街の探索をするとしよう。

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