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13:キーパー部屋

本日も四話更新となっています。

こちらは一話目です。

「ZZZ...ZZZ...」

『ヴァイオレットキーパー・レンウハクね。長いから、菫キパって呼んでおくか』

『ブン。菫キパですね。分かりました』

 ヴァイオレットキーパー・レンウハク改め菫キパは部屋の中心で眠っていて、イビキをかいている。

 眠っているので当然だが、こちらのことは認識していないだろう。

 なので俺は部屋の中に入らずに観察を続ける。


『菫キパは……微妙にヒヨコっぽくもあるな』

『ブーン、ヒヨコですか?』

『なんとなくだけどな』

 菫キパの全体の造形として近いのはヒヨコだろうか。

 とは言え、此処から見る限り、羽毛は黄色ではなく菫色、脚は四本、翼ではなく腕、腕の先の手には直径が俺の体の幅くらいありそうな棍棒、目は真正面に大きなものが一つ、と言う具合にヒヨコとは色々違うのだが。

 どちらかと言えば、翼の代わりに腕が生えている単眼のグリフォンと言う方が正しいのかもしれない。

 なお、大きさについては、たぶんだが立ち上がった時の体高が5メートルくらいになる。

 こちらのおよそ3倍であり、かなり大きいと言えるだろう。


『菫キパ以外の敵影は無いが、面白そうな構造物があるな』

『ブン。トビィの言う面白い構造物とやらは登る事が可能なようです』

 続けて菫キパがいる部屋の構造。

 広さについてはこれまでの部屋と大して変わらない。

 だが、部屋の中にスロープ付きの柱のようなものが複数本存在していて、上手く動けば柱の上に登る事も出来るだろう。

 菫キパ以外に動くものはなし。

 チュートリアルのボスであるし、そこまで底意地の悪い仕掛けもないだろうから、増援の心配はたぶんしなくてもいいだろう。


『で、あれが脱出ポッドか』

『ブン。アレに入ればチュートリアル終了であり、第一坑道・レンウハクの攻略成功です』

 俺がいる場所から見てほぼ真反対側、菫キパを挟んで向かい側の壁には短い通路があり、通路の先には円筒形の物体が内部に入るための口を広げて待っているのが見えた。

 ティガの言葉通りなら、アレが脱出ポッドであるらしい。

 これまでの情報を統合するならば、菫キパが眠っている間は、大きな音を立てたり、不要な接触をしたりしなければ、気づかれずに脱出ポッドに行くことは可能だろう。

 ちゃんと戦わないという選択肢は存在しているらしい。


『ティガとしては、菫キパとは戦闘を行わず、脱出ポッドに入ることを推奨します。菫キパの色はヴァイオレット。パープルよりも一段階上の色になりますので』

『つまりそれだけの強敵って事か。実に殴り甲斐がありそうだ』

『ブブ……挑むつもりですか。トビィ』

『挑むつもりだとも。ティガ』

 だが俺は戦う。

 あんなに殴り甲斐がありそうな相手が目の前に居るのに、強いからと臆して殴り掛からない?

 そんな選択をするぐらいなら、自分で自分の頭をぶん殴って昏倒した方がはるかにマシと言うものだ。


『ま、安心しろ。流石に真正面からがむしゃらに挑むなんて馬鹿げた真似はしない』

『ブーン、そうなのですか?』

『そうだとも。俺は殴ることを求めている。それが事態を悪化させても構わないと思ってもいる。だが、その後の事態がいい方向に転ぶのを求めていないわけじゃない』

『……つまり?』

『ちゃんと頭は使う。殴るなら、殴ったことで敵を仕留められるように、立ち回るぐらいのことはする』

『ブン。そうですか』

『興味がなさそうだなぁ……』

『ティガはサポートAIです。まだトビィのサポートを始めてから間もないので、トビィの思考を理解できないのです』

『はいはい。そうですか』

 これは嘘だろう。

 これまでのやり取りから考えて、ティガの思考能力はかなり高い。

 それこそ下手な人間よりも賢いのではないかと思うレベルだ。

 現にティガは今、嘘を吐き、敢えて思考を止めて、俺の嗜好についての語りを止めた。

 普通のAIなら理解が出来ずにフリーズしかねない事柄に対して、理解できないと認識し、無視することで、クラッシュすることを回避したのだ。

 これが出来る奴の頭が悪いわけがない。

 ま、問い詰めてもよくて関係悪化なので、問い詰めたりはしないが。

 それに今は他に殴り甲斐があるものもあるわけだしな。


『それでトビィは結局のところどうするつもりですか?』

『そりゃあお前、菫キパの直ぐ近くどころか、頭上に向かって突き出してもいる、なんて柱があるんだぞ。こんなもの、利用しろと言っているようなものじゃないか』

 俺は静かに部屋の中へと入っていく。

 そして、念のために柱の陰に姿を隠し、菫キパの様子を窺い、可能な限り音を出さないように注意を払いつつ、目的の柱の根元に移動。

 急勾配なスロープを這うように登っていく。

 ちなみにこのスロープ、初期パーツであるビギナーアームでも登れるようにとの配慮なのか、ところどころに手ごろな大きさのくぼみが空いている。

 やはり、挑むプレイヤーがいるのは想定の範囲内であるらしい。


『最終確認だ。ティガ。燃料とパーツの状態を万全にできるか?』

『ブン。可能です。多少のロスが出ますが、構いませんね』

『もちろん構わないとも』

「ZZZ...ZZZ...」

 スロープを登り切った俺は、インベントリ内にある岩と緋炭石を消費して、ゴーレムの状態を万全にする。

 と同時に菫キパの様子も確認。

 菫キパは未だに眠っていて、起きる様子は微塵も見られない。

 では、予定通りに始めさせてもらおう。


『じゃ、やらせてもらいますか……』

 俺は柱の一番上から、菫キパの頭上に向かって跳躍。

 両脚が地面から離れたことでゴーレムは本来の重さを取り戻して、勢いよく重力に引かれて落ちていく。

 落ちた先に見えているのは菫キパのうなじ。

 俺はゴーレムの体の各部を回転させることによって空中で拳を動かし……。


『ねっ!』

「ピギィ!?」

 菫キパのうなじへと、落下の勢いを乗せた一撃を叩き込んだ。

01/29誤字訂正

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