12:パープルハウンド
本日四話目になります。
『一歩進んで……』
「「グルッ!?」」
「バウッ!」
俺は部屋の中に一歩踏み込んだ。
それと同時に二体のホワイトハウンドは若干驚きながら、一体のパープルハウンドは冷静にこちらを認識する。
『二歩下がる!』
そして、俺はそれを認識すると同時に、素早く二歩下がって、通路の中へと移動する。
これで相手がどう動くかだが……。
「「グルアッ!」」
ホワイトハウンドはそのまま突っ込んでくる。
通路の狭さなど気にしないと言う感じか。
「バ……」
対するパープルハウンドは、ホワイトハウンドの後を追う形で突っ込んでくるつもりのようだ。
おしい、これで三体同時に突っ込もうとするなら、相手の機動力を完全に殺した状態でこちらは動けたのだが。
だが、想定の範囲内なので問題はない。
「「バウアアアッ!!」」
二体のホワイトハウンドが牙を剥いて飛び掛かってくる。
その牙は鋭利だが、脅威でないことはもう分かってる。
そして、空中でもう一度跳ねるような真似が出来ないのも分かっている。
『掴んで……』
「「キャウッ!?」」
だから俺は素早く一歩前に出つつ、一つの手で一体のホワイトハウンドの首を掴む。
続けて、ホワイトハウンドの飛び掛かる勢いを殺さないようにしつつ、その軌道を俺の体より下の方へ向かうようにする。
その上で俺も跳躍。
俺の体はゴーレム本来の重さを取り戻し……。
『落とす!』
「「!?」」
二体のホワイトハウンドの首と頭を押し潰して粉砕する。
うん、実にいい火力をしている。
殴りではないので、大満足にはならないが。
「バウアッ!」
『ぐっ!?』
それと、この攻撃には欠点もある。
攻撃終了後の状態が、基本的に隙だらけなのだ。
今の俺は四つん這いに近い状態であり、遅れて通路に駆け込んできたパープルハウンドは俺の隙を見逃すことなく、俺の頭部に噛みついてきた。
『トビィ。相手の攻撃が通っています。対応を』
パープルハウンドの牙はしっかりと俺の頭に食い込んでいて、攻撃を受けているという違和感を俺に与えてきている。
どうやらパープルハウンドの牙と、俺の岩の体の強度を比べた場合、容易に噛み砕くことは出来ないが、無効化できるほどに差があるわけではないらしい。
つまり、時間をかければ、攻撃を重ねれば、パープルハウンドは俺を殺せるという事だ。
『分かって……らぁ!』
「ギャイン!?」
面白い。
そうでなくては面白くない。
俺はそう思いつつ、四つん這いの状態を生かすように、クラウチングスタートに近いような動きでもって前方に向かって突撃。
頭をパープルハウンドの喉奥へと押し込むように動き、撥ね飛ばす。
『おらぁ!』
「ッ!?」
そのまま続けて地面に倒れこんだパープルハウンドを押し潰すように拳を振り下ろすが、これはパープルハウンドが素早く復帰、回避行動に移ったため、当たらなかった。
『ハハッ、いいねぇ。カカシを殴るのもそれはそれでいいが、逃げ回る奴を殴るのもそれはそれでいい。ちゃんと戦う気がある奴を殴るのもな』
「グルルルル……」
『トビィ。鉱石系マテリアル:岩を消費して、頭部の修復を開始します』
俺は腰を落とし、迎撃の姿勢を取る。
パープルハウンドも立ち上がり、こちらの周囲を回るように動いて、様子を窺ってくる。
その間にティガのアナウンスが流れ、インベントリにあった岩を消費して、頭部の修復が開始される。
ふむ、敵の攻撃で傷を受けた際に自動回復する事自体はありがたいが、その際にマテリアルが消費されるのを考えると、やはりインベントリには修理用のマテリアルをある程度は入れておくべきだし……そもそもダメージを受けるような立ち回り自体を出来る限り控えた方がよさそうか。
「バウアッ!」
『ま、今は被弾前提で立ち回るしかねえけどな!』
パープルハウンドが向かってくる。
俺は素早く腰だけを回転。
脚に噛みついたパープルハウンドに対して掬い上げるようなアッパーを打ち込み、浮かせる。
と同時に、脚の一部が抉れるが、これは許容範囲内。
俺は気にせず腰を回し続け……。
『おらぁ!!』
「!?」
アッパーで浮いたパープルハウンドにストレートに近い拳を叩き込む。
会心の感触だ。
パープルハウンドの皮による防御を貫き、内臓、肉、骨に衝撃を与え、破壊をもたらした事が感触で分かった。
「……」
『よっし』
そうしてパープルハウンドは吹っ飛び、地面を転がり、動かず、そのまま消え去った。
≪設計図:ハウンドヘッドを回収しました≫
『犬の頭か。スコ82って嗅覚はあるのか?』
『ブン。あります。ただ、対応しているパーツの着用が必要です』
『ああなるほど。視覚、聴覚、嗅覚辺りは頭部のパーツ次第って事か』
『ブン。そういう事ですね』
無事勝利だ。
と同時に、損傷した脚部の修復が始まる。
『パーツの修復ってどの程度までは出来る? 貰ったチュートリアル文章になかったから確認しておきたいんだが』
『ブーン。パーツ次第ですね。完全に破壊されてしまうと、ラボあるいは現地ラボでの修復が必要になります』
『なるほどな。やっぱり先々は無被弾あるいは最低限の被弾に抑えるべきか』
足の修復はやがて終わり、俺は第三階層のまだ行っていない部屋へと向かう。
これまでの部屋にキーパーと脱出ポッドがなかった事を考えると、そろそろだろう。
「ZZZ...ZZZ...」
『あれがキーパーか』
『ブン。ヴァイオレットキーパー・レンウハクです』
そして、俺の予想が正しい事を示すように、次の部屋の中心では、菫色の巨体が寝息を立てていた。