<< 前へ次へ >>  更新
11/29

11:ホワイトパイコーン

本日三話目になります。

『さて第三階層。ここに脱出ポッドがあるんだな』

『ブン。そして、脱出ポッドに乗ることで、トビィのチュートリアルは終了です』

 第三階層に着いた俺は周囲を見る。

 第一階層、第二階層との差はなし。

 まあ、チュートリアルだからだろう。


『ただし注意をしてください。脱出ポッドの近くには必ずキーパーと呼ばれる強力な魔物が発生しています』

『キーパーねぇ……まあ、所謂ボスか』

 キーパー、ボスについては、スコ82の他の魔物と同じように、戦わないという選択肢があるらしい。

 だが、戦わない選択肢を選ぶなら、見つからないように立ち回る必要がある。

 そのためには相手よりも先にこちらがキーパーを見つける必要があるわけだが……。

 現状の俺のゴーレムだと、出たところ勝負にしかならないな。


『さて、一つ目の部屋は……変なのが居るな』

『ホワイトパイコーンですね』

 だが、出たところ勝負でも勝ちの目を多くする努力はするべきだろう。

 という訳で、俺は通路の角からその奥を確認。

 部屋を確認しても即座には飛び込まず、少し様子を窺ってみる。

 すると次の部屋に妙なものが見えた。


『ホワイトパイコーン? 松ぼっくりにしか見えないが……』

『正しくはパインコーンのようですが、こちらの方が語感がよかったそうです』

『ああなるほど』

 それは白い松ぼっくりだった。

 サイズはたぶんゴブリンと同じ程度で、こちらの腰ぐらいまで。

 傘は開いていない状態で、本来なら樹にくっついている部分に小さな虫の足のようなものが付いている。

 目があるかは分からないが、周囲の認識はしているようで、時々体を左右に振っている。


『あれは魔物でいいんだよな。ティガ』

『ブン。もちろん魔物です。と言いますか、この坑道に実体を有するトビィの味方は居ませんので、他に実体のあるものが居るのなら、魔物か回収対象でしょう』

『それはそうか』

 松ぼっくり型の敵なぁ……まあ、ホワイトなら妙な行動も持たないだろうし、素直に殴り掛かればいいか。


『おっし、行くぞオラァ!』

「!?」

 となれば話は早く、単純だ。

 俺はホワイトパイコーンが居る部屋へと駆け込む。

 そして、こちらを見て驚いているホワイトパイコーンに殴り掛かる。


『オラァ!』

「マッツウ!?」

 掬い上げるようなアッパーがホワイトパイコーンに突き刺さり、吹っ飛ぶ。

 部屋の中に他の敵は居ない。

 では、このまま仕留めてしまおう。

 そう思ったがホワイトパイコーンを追いかけ、ホワイトパイコーンが地面に転がった時だった……。


「パイイィィン!」

『ぅつう!?』

 俺の視界に真っ赤なものが生じた。

 炎だ。

 地面に接触したホワイトパイコーンとその周囲、直径にして2メートル程度の範囲が激しく燃え上がっている。


『あぶねえな……火炎瓶か何かかよ』

『パイコーン種特有の能力と行動のようです。トビィ』

『なるほど。第三階層に入って妙な能力持ちが居ると言うチュートリアルか。この手のは痛くしないと分からねえから、文章にもないのは当然だな』

 少しずつ落ち着いてきているが、それでも火勢は十分ある。

 アレに巻き込まれた場合、俺のゴーレムの体を構築している岩と核が持つかは……まあ、短時間なら大丈夫か。

 長時間になったら、上の二階層の敵の攻撃よりも激しく削られそうだが。


≪設計図:モロトフラックを回収しました≫

『おい』

『偶然です。トビィ』

 どうやらホワイトパイコーン自体は死んだらしい。

 それはそれとして、モロトフラック(火炎瓶の棚)とか言う、物騒な名前の何かの設計図が手に入ってしまった。

 今は坑道に居るのでフレーバーテキストは読めないが、恐らくは火炎瓶(モロトフ)らしく攻撃用の投擲物。

 もしかしたらスモールライトクロスボウと同じく、緋炭石を消費することで普通に使う分には幾らでも使えるのかもしれない。


『使う事はあると思いますか? トビィ』

『持ち運び周り次第だな。持ち運びが良ければ、投擲物の類は格闘戦に持ち込むのに使える』

『トビィはぶれませんね』

 なんにせよ戦闘は終わったので、他の部屋へと向かう。

 ただ、他の部屋にあるものは、一つの部屋を除いて、ほぼこれまでに見たことがあるものだった。

 いやまあ、クロスボウではなく槍を使うゴブリンとか、短剣ではなく曲刀を使うコボルトとか、これまでに見なかったものはあるが、どちらも使い手の中身がアレだったので、同時に襲ってくる数が増えていることを含めても、脅威にはならなかったのだ。

 また、マテリアルタワーについても特に変化はなし。

 レコードボックスはそもそも見かけなかった。


『さて次の部屋は……紫色の犬?』

『パープルハウンドです。ホワイトハウンドの上位存在ですね』

 では、初めて見たと言えるものは?

 紫色の毛をもった大型犬、ティガ曰くパープルハウンドだ。

 二体のホワイトハウンドを従える形で、次の部屋の中をうろついている。


『キーパーではないんだよな』

『違います。キーパーはもっと強力です』

『色に関するチュートリアルは……』

『こちらですね。トビィ』

 何故色が違うのか。

 理由については分からない。

 だが、色が違う個体は強さも違うらしい。

 パープルはホワイトよりも一段階強い魔物の色であり、その攻撃は岩の体を持つゴーレムであっても決して油断はできないそうだ。


『じゃ、挑んでみるか』

『ブン。ご武運を、トビィ』

 俺は相手が一段強くなったことを理解した上で、部屋の中へと向かっていった。

<< 前へ次へ >>目次  更新