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10/29

10:ホワイトゴブリン

本日二話目になります。

「「「ヂュッヂュアッ!!」」」

『ノータイムか!』

 三体の鼠人間……ホワイトゴブリンは手に持ったクロスボウを躊躇いなく俺の方へと向けると、即座に撃ってくる。

 不思議な事に放たれた矢の形状や材質はよく見えている。

 矢じりはなく、代わりに先端を尖らせただけの木製の矢だ。

 マジカルな作用を有さない限りは、直撃しても体が少し欠ける程度だろう。

 だが反射的に俺は腕を上げ始めており、防御の姿勢を取ろうとしている。

 また、脚が思うように動かない。

 なので、今回はそのまま受けることにする。


『……。ティガ、説明しろ』

「「「ヂュー……」」」

 結果、ホワイトゴブリンの矢は全て腕に当たり、ほんの僅かに俺の体を削るだけに終わった。

 この程度では、自動修復機能もまだ働かない程度だ。


『ゴーレムの認識速度はトビィの認識速度の影響を受けています。ですが、それだけでなく、高速度の攻撃の始点を目視し、それを危険だと認識することが出来た際には、トビィの認識速度を一時的に引き上げることも可能です』

『なるほどな。人為的にゾーンに入れるような感じか。今はまだゴーレムの体を動かす方のスペックが追い付いていないから、見えるだけみたいだが』

『ブン。現状ではそうですね。ですが、良い反応です。トビィ』

 どうやら先ほどの現象は、ホワイトゴブリンの得物が遠距離攻撃が可能であるクロスボウであり、それに対して俺が危機感を抱いたが故に起きた、ゲーム的には普通の現象であるらしい。

 そして、もう俺がホワイトゴブリンの攻撃に対して脅威を感じていないからだろう。

 今はホワイトゴブリンたちの矢を受けつつ着実に接近しているのだが、クロスボウの矢はクロスボウの矢らしい速さで飛んできては弾かれている。


『お褒めに預かり光栄。ってところか。ま、ありがたい機能だな。相手が撃ってくるのが鉛玉だの鉄の矢だの、ファンタジーな何かになったら、これぐらいの機能は無いと矢や銃弾の類への対処なんて出来やしねえし……なっ!』

「ヂュガァ!?」

「「ヂュウゥ!?」」

 十分に接近した俺は、こちらの腰ぐらいまでの背しかないホワイトゴブリンに向かって拳を振り下ろし、即死させる。

 で、俺がそうしている間、他のホワイトゴブリンは怯えつつも素早く矢を装填して、こちらにむかって撃ち続けている。


『逃げないのは楽でいい……なっ!』

「ヂュガァ!?」

「ヂュウゥ!?」

 どうやら、ホワイトコボルトとホワイトハウンドがひたすらに飛び掛かり攻撃をしていたように、ホワイトゴブリンにもその場でクロスボウに矢を装填して撃つ以外の行動は出来ないらしい。

 実にチュートリアルらしくあり……度胸をつけるための訓練と言えそうだ。


『お前で最後だ……ぞっ!』

「ヂュガァ!?」

 しかし、スコ82は中々に極端なゲームバランスをしている気がするな。

 こちらは核さえ無事なら、後は素材さえあればいくらでも修理が出来るゴーレム。

 対する敵は普通の生物に近く、頭を潰すなどすれば簡単に倒れるような状態。

 今がチュートリアルで、この先の敵にビビらないようにするためにプレイヤーを教育している段階と考えると……敵が強くなってきたときのスペックの上がり具合がヤバい事になるのかもしれないな。

 覚悟をしておくと同時に、楽しみに思っておこう。


≪生物系マテリアル:骨を1個回収しました≫

≪設計図:スモールライトクロスボウを回収しました≫

≪設計図:ゴブリンヘッドを回収しました≫

『戦闘終了です。トビィ』

『骨か。岩より軽そうだが、その分脆くはあるんだろうな』

 と言う訳で戦闘終了。

 報酬を手にした俺は、次の部屋へと向かう。


『おー、手に入る。手に入る。ありがたい話だ』

『嬉しそうですね』

『嬉しいさ。チュートリアルだから半ば固定なんだろうけどな』

『ブン、ブブ、ブーン。幅はありますよ。トビィ』

≪鉱石系マテリアル:岩を24個回収しました≫

≪特定物質:緋炭石を58個回収しました≫

≪設計図:ハウンドボディを回収しました≫

 で、結果として、岩のマテリアルタワーを1つ、緋炭石のマテリアルタワーを2つ、レコードボックスを1つ回収。

 全ての部屋を巡り終えた俺はエレベーターに乗って、再び現地ラボに入る。


『では、作成と構成変更ですか?』

『んー、ティガ。フレーバーテキストを読むついでに、設計図から出来上がるパーツがどういうものか見ることは出来るか?』

『プレビューですね。ブン。表示します』

 現地ラボに入った俺はコボルトアームの時とは違い、設計図の状態で色々と見ることにした。

 手に入れた設計図がハウンドレッグ、ハウンドボディ、ゴブリンヘッド、スモールライトクロスボウと四つあり、全てを作ることが出来ないからだ。

 で、特に気になるのが、スモールライトクロスボウなので、まずはこれからだ。



△△△△△

スモールライトクロスボウ

種別:パーツ

部位:武装


小さくて軽い、装填速度も早め、初心者でも扱いやすいクロスボウ。

であるが故に威力も控えめとなっており、牽制以上の役目を持つことは難しいだろう。


≪作成には同一マテリアルが10個必要です≫

▽▽▽▽▽



『ふうん……指があれば、片手でも扱えるサイズのクロスボウか。で、矢はこれどうなっているんだ?』

『矢は通常のものであれば、緋炭石を消費することによって、自動で生成されます。特別の補充は不要です』

『通常のものならば、ねぇ』

『ブーン、ティガには未開放のコンテンツが含まれているので、お伝えできません』

 なるほど、緋炭石と引き換えに矢は撃ち放題なのか。

 となれば、手軽な遠距離攻撃手段として、持っておくのはありか。

 俺は殴ることを好んでいるが、殴るに至るまでの経緯については、色々と幅があっていいと思っているからな。

 俺はプレビューとして表示された、スモールライトクロスボウをイメージの中で取り回しながら呟く。


『武装の数の制限は?』

『ブブ。ありません。が、坑道内に持ち込み、置いていった武装は、別の階層に移動した時点で失われます』

『そうか。なら、まだ早いな』

 が、どうやらスモールライトクロスボウには持ち運びのために必要なパーツの類が無いようだった。

 となれば、一々手に持って行く必要があるわけで……今作るのはちょっとアレだな。


『他もとりあえず今は要らないな。俺の戦闘スタイルには合わなさそうだ』

 なお、他の設計図のフレーバーテキストはこんな感じだった。

 どれも作ることはないだろう。



△△△△△

ハウンドレッグ

種別:パーツ

部位:脚部


(ハウンド)の脚部を模して造られたゴーレムの脚。

四本の脚は安定性に優れ、素早く駆け回る事が出来る。


≪作成には同一マテリアルが10個必要です≫

▽▽▽▽▽


△△△△△

ハウンドボディ

種別:パーツ

部位:胴体


(ハウンド)の胴体を模して造られたゴーレムの胴体。

四足歩行生物の胴体を模しているため、二足歩行であるゴーレムに適しているとは言い難い。


≪作成には同一マテリアルが10個必要です≫

▽▽▽▽▽


△△△△△

ゴブリンヘッド

種別:パーツ

部位:頭部


鼠獣人(ゴブリン)の頭部を模して造られたゴーレムの頭。

鼠の頭に似た頭には鋭くとがった前歯が生えており、武器として用いる事が出来る。


≪作成には同一マテリアルが10個必要です≫

▽▽▽▽▽



『さて、第三階層だな』

『ブン。第一坑道・レンウハクの最深部です。どうかお気を付けを』

 そして、俺は次の階層へと向かった。

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