千年前の王位継承争い
「…………」
「すまない。一気に、話しすぎてしまった。かんたんにまとめると」
彼は、人差し指を立てた。
やけに、真剣な眼差しだった。
「現在のセミュエル王家は、直系筋ではないこと」
そして、中指も続けて立てた。
「次に、千年前の王位継承争いに巻き込まれ、真の稀人はその能力を奪われ、国を追われたこと」
今度は、薬指も立て、たっている指は合計で三本となった。
「最後に。その復讐をするために、クリム・クライムという国が生まれたこと──それだけ、理解してくれればいい」
「クリム・クライムは──この千年、セミュエルに復讐するためだけに、存在していた、ということ？」
「そうなるかな。俺の持つ、預言者という能力は、千年前の、稀人の神秘のひとつだ。彼は、季節を巡らせる能力の他に、予知の力を持っていた。これは、セミュエル王家には知られていない能力だ。千年前──クリム・クライム初代の王と、稀人は、この地に逃れてきた後、婚姻関係を結んだ」
「え──」
その言葉に、私は驚いた。
てっきり、国を追われたセミュエル王家直系の人間、というのは男性だと思っていたからだ。
だけど、彼の話を聞くに、そのひとは女性だったのだろう。
「クリム・クライム初代王は……女王陛下だったのね……」
私の言葉に、サミュエルは頷いた。
「今のクリム・クライム王家の人間には、千年前の稀人の血が流れている。だからこそ、稀人が持つ神秘──預言者としての力と、セミュエル王家直系に継承される神秘──眠りに関与する力が、代々継承されているんだ」
私は、忙しなく思考を回転させて、今聞いた話を整理した。
千年前、セミュエルでは激しい王位継承争いがあった。
勝利したのは、分家筋の人間で、直系筋の人々は国を追われた。
同時期、王家分家筋の人間によって能力を奪われた稀人は、国を追われた王家直系の人々と手を組み、国を出た。
その後、たどり着いたのがこの地、クリム・クライム。
そこで、現在のクリム・クライム王家はセミュエルに復讐を誓った。
稀人の能力を奪い、王位を簒奪した反逆者を、現在のセミュエル王朝を、倒すために。
「……最後の年、というのは」
「……約束を結んだ時、千年以内に復讐が果たさなかった場合、稀人が蒔いた呪いが噴出すると言われている。あくまで、根拠の無い迷信のようなものだ。ただ、やけに具体的な話なので──クリム・クライム内では、予言に近いものとして捉えられている。そして、約定の千年の期限は、今年だ」
「なるほど……。ようやく、理解したわ。それをどうにかするために、あなたはセミュエルを訪れた？……あら？でも、あなたは世界を見る傍観者だって、この国は」
クリム・クライムは世界を俯瞰的に見る国だと、そう話していたのを思い出す。
私の問いかけに、サミュエルが苦笑する。
「王家に継承される預言者の能力は、そういうものなんだ。当時の稀人も、そういった立ち位置だったのだと思う。……思うに、俺は、当時の稀人は、自身が能力を強奪され、国を追われることを知っていたのだと思う。知っていて、未来を変えることは出来なかった。彼は、失敗したんだろう」
（……同じ事象に関与できるのは、二回まで。それ以上の予知はできない）
そう、彼が話していたの思い出す。
彼の話を聞いて、驚きと、思った以上に規模の大きな話に若干、まだ頭が追いついていない。
それに、何より──。
あまりにも私が前の世で読んだ物語と、内容が違う。
稀人の設定と、季節が固定されていることは物語でも説明があったけど。その能力が強奪されたものだなんて説明はなかった。
食事を終えてから、既にかなりの時間が経過してい。いつの間に、こんなに話し込んでいたのだろう。
一度にたくさんの情報を聞いて、混乱しているだろうとサミュエルは私に言った。
疲れているだろうし、もう今日は休んだ方がいい、とも。
私は彼の言葉に甘えて席を立つ。
そこでふと、先程から気になっていた疑問を、口にした。
「あなたが、セミュエル国と似た名前なのは、偶然……？」
私の質問に、彼は驚いたように目を見開いた。
「……俺は、約定の千年を果たす王子と、前代の預言者に定められていた。それもあって、セミュエル──いや、当時の稀人の名前、サミュエルの名が付けられた」
「当時の稀人……」
「セミュエル国は……最初は、セント・サミュエルと呼ばれた国だ。それが省略され、セミュエル国となった。その記録も、焚書に処されて今のセミュエルにはもう、残っていないだろうけどね」