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エミリア


「……スカーレット・デ・シュタルク。それ以上の失言には相応の処罰を与える」



「あら……。虎の尾を踏んでしまった?これは、失礼をいたしました」



スカーレットは優雅な仕草でカーテシーを執る。王は、老齢とは思えないほどの恐ろしい形相で彼女を睨みつけたが、彼女はそれをものともしなかった。



結果、半年後までにアマレッタが見つからなかった場合は、春を飛ばすことで決定した。


新緑の春。

萌芽の春。

明けの春。

神の春。



それらを飛ばし(スキップ)し、夏に。

セミュエルは、春夏秋冬に適した土壌、種を植えられている。

天候不良どころの話ではない。異常気象レベルの変化に、セミュエルはどうなるのだろうか。




王から解散が告げられ、各々謁見の間を出る。


サイモンは謁見の間を出ると、周囲の人通りが途切れるタイミングを狙い、スカーレットに話しかけた。



「シュタルク夫人」


「あら……以前のようにスカーレット様、でいいのよ?」



幼い頃、彼女をそう呼んでいたことを持ち出され、サイモンは酸っぱいものでも口にしたかのような顔をした。が、気にせず、ずっと考えていたことを口にする。


「あなたは、冬を司る稀人……セドリックの神秘が何か、知っているか?」


「…………さぁ。聞いたことないわね。というか、それ、聞くの?稀人(かん)禁句(タブー)扱いされているというのに」


「そもそも、なぜ禁句とされている?それを決めたのは、誰だ?」


「……あなたのそういうところは、お兄様譲りね。可愛い子。……だけど、気をつけなさい。私は、これ以上、愛しい子を失いたくない」


彼女はそっと、サイモンの髪を撫でた。


彼女は寂しそうに笑っていた。

その瞳を見て、サイモンは苦笑した。

彼女は、いつまで経ってもサイモンを子供扱いする。


(それも当然か)


何せ、サイモンが生まれた時、彼女は26歳。

彼女から見たら、甥っ子か、自身の子供のようなものなのだろう。


足を引いて彼女の手から逃れると、彼女も手を引いた。



「……私を止めますか?」



サイモンの眼差しは強かった。

幼少時とは違う、碧色(へきしょく)色の瞳。


それに、強い覚悟と意志を感じ、スカーレットは僅かに息を詰めた。


それから緩やかに息を吐き、肩にかけたショールを羽織り直す。



「……私はもう、年老いた傍観者。人生の先輩として、若者に足を踏み外さないよう忠告することはできても、引き留めることは出来ないの。……アマレッタは、自ら枷を外したのでしょう。危なっかしい子だと思っていたけど……子供の成長は早いものだわ」



「シュタルク夫人」



「これは私の勘だけど……冬を司る稀人は、神秘を使えない。あるいは、使えたとしてもそうとう使いにくいものだと思うわ」



「──」



「神秘を使えるなら、それを使ってアマレッタを取り戻せばいい。あなたも神秘を持っているのだからわかると思うけど、稀人の使う神秘は人間の理解と常識を超えている」



スカーレットの言葉は、その通りだった。


彼女の持つ神秘も、サイモンが持つ神秘も、ひととしての力を優に超えるものだ。

それこそ、物語にでも出てくるような、非現実的で超然的なもの。

スカーレットは、周囲を気にするように声量を落とし、言葉を続けた



「それなのに、王家はアマレッタが見つからなかった時のことを前提に考えている。今回の件で、誰よりも焦っているのは王家のはずなのに、冬を司る稀人、セドリックは自身の神秘に関わる発言すらしなかった」



「つまり……冬を司る稀人の神秘は、僕らのそれより劣るか、あるいは」



サイモンもまた、声を潜めて自身の推測を口にする。


その時。




「あ……いた!サイモン様……!」



ふたりの背後から、思わぬ人物の声がした。


話していた内容が内容なので、ふたりは瞬間、体を強ばらせた。


だがスカーレットは流石、場馴れしているだけあり、すぐにいつもの自然体に戻った。

彼女はくちびるに薄い微笑みを乗せ、振り返る。



「あら……王太子殿下の恋人の……ええと?」



名前を知っているのに意図して惚けたスカーレットに、彼女──エミリアは、怯んだようだった。


だけどすぐに気を取り直したようで、スカーレットではなくサイモンに向き直る。

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