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幕間    「とある小人と妹姫」

「ずーるーいー!!」


 境界都市に赴いたヘリアン一行が、蒼騎士との遭遇戦を終えた数日後。

 ラテストウッドに派遣されていたロビンは、ラージボックス付近に建設された臨時の指揮所にて、そんな言葉を口にした。

 この世の無常を嘆くような慟哭だった。


「……今度はなんですか、団長殿。またいつもの発作ですか?」


 そんなロビンに呆れ顔で応じるのは、副官であるメルツェルだ。

 派遣団の副責任者に任じられた彼は、睨みつけていたラージボックス建設の工程表から顔を上げ、胡乱げな視線で上司を見やる。


「いつもの発作ってなにさ!? ボクは健康そのものだよ!」

「悪戯を我慢したままだと手足が震えるとか言ってませんでしたっけ?」


 半目で問い掛けるメルツェルに対し、ロビンはそっぽを向くことで応えた。かつてそんな言い訳を口にした記憶があったからだ。

 メルツェルはやれやれと頭を振り、工程表を睨む作業を再開する。ペンを持つ手を動かした拍子に、じゃらりと鎖の音が鳴った。


「……ねえ。今更だけど、この扱いはあんまりじゃないかな。ボク、軍団長だよ? 第七軍団の中で一番偉いんだよ?」


 少年団長が訴えるのは、音の発生源を目にしてのことだ。

 ロビンの右腕とメルツェルの左腕には、それぞれ鈍い輝きを放つ腕輪が嵌められており、腕輪同士が頑丈な鎖で繋がれている。

 それは誰がどう見たところで、ロビンを拘束する為の『手錠』でしかなかった。


「何度言っても懲りない悪童には、極めて妥当な扱いかと」

「不当逮捕反対ー。メルツェルは速やかにボクを解放せよー」


 ぶーぶーと文句を言うロビンを無視して、メルツェルはペンを走らせる。

 ロビンはそんなメルツェルの横でしばらくブーイングを続けていたが、ほどなくして飽きたのか、床に『の』の字を描く仕草をしていじけ始めた。そして時折、斜め下の角度からチラチラとメルツェルを見つめてきたりする。その視線の意味するところは、冒頭の意味不明な絶叫に起因するものだろう。

 「訊いて訊いて」と主張する視線に根負けしたメルツェルは、諦めの吐息と共にその問いを口にした。


「……で、何がずるいってんです?」

「よくぞ訊いてくれたね、副官クン!」


 聞きたい? 聞きたい? 本当に聞きたい? と瞳をキラキラさせる上司にイラッとしたが、いちいち怒っていては身が持たない。

 メルツェルは努めて平静を装い、お聞かせくださいと答える。


「ずるいのはリー姉だよリー姉! いや、いっつも王様と一緒に面白いことやってるし日頃からずるいのは確かなんだけど、今回はそんな話ですらなく!」

「……ああ、例の件ですか。なんでも、神話級脅威(SSランク)の単独撃破を成し遂げられたとか」


 未だ国民には周知されていないものの、一部の幹部格には知らされていたスクープである。


 神話級脅威が遠征先に存在したという事実も驚きだが、備えも不十分な遭遇戦にて、しかも単騎で撃破したという事実は更に衝撃的だった。なにせ神話級脅威とは本来、念入りに準備を整え、確かな情報に基づいた戦術を練り、十分な戦力を用意した上で挑むべき存在だからだ。

 理想としては複数の軍団長で攻略すべき脅威を相手に、王の御力を借りてのこととはいえ単騎で撃破してみせた第一軍団長の功績は、さすがは〝始まりの三体〟だと唸らされる大戦果だった。この情報が公表された暁には、王と共にその戦果を称えられることだろう。


「そう、そうだよ! しかも王様の目の前でだよ!? 王様のピンチ救って大活躍したんだよ!? なにそれカッコいい超ずるい! ボクだって暴れたいのにー!」


 いちいち声を張り上げて、少年団長は不平不満を口にする。

 メルツェルにしてみればやかましいことこの上なかったが、彼の心情を思えば、ある程度は合点のいく内容ではあった。


 なにせ世界間転移現象が発生した翌日の一戦にて、彼は何の活躍もできなかったのだ。他の軍団長が各々務めを全うする中、彼一人だけが蚊帳の外に置かれていたのである。


 全ての戦闘が終結した後、本国の大広場で待機していた彼に終戦を告げたのは他ならぬメルツェルだったのだが、あの時の上司の表情は極めて愉快――もとい非常に痛ましいものだった。絶望を形にしたかのようなあの顔は、今思い返しても胸がスッとする――もとい締め付けられる思いだ。


「――いかん。本音が」


 隠そうとしたが隠しきれなかった。

 どうやら自分も国家間交流という不慣れな仕事を兼任していることもあってか、少々疲れが溜まっているらしい。


「何分、本業ではないからな……」


 そもそも、自分は技術畑の出身だ。

 人並み程度の対話能力はあるが、あくまで人並みでしかない。

 そんな自分が、この世界における初の国家間交流の先駆け、派遣団の副責任者に任命されたという事実。

 畑違いだというのが、任務を聞かされた際の正直な感想だった。


 しかし、総責任者の名を聞かされて納得した。あろうことか派遣団のトップに据えられたのが自分の上司(ロビン)だったのである。

 ファフニールの検証を始めとする諸問題の一括解決を狙って、また今後の展望を見据えた上での人選だという話だが、兎にも角にも総責任者が彼ならば、副責任者に自分が任命されるのも当然のことだろう。この暴走小人を抑えられる人物など、そうそういないのである。


「……かくいう私とて、抑えきれるわけではないのだが」


 せいぜい被害者数を減らすぐらいが関の山だ。

 真っ当に抑えきれる人物といえば、第一軍団長、第二軍団長、第三軍団長の三名からなる〝始まりの三体〟ぐらいのものだろう。


 まず、第一軍団長は統括軍団長としての権限も有しており、各軍団長をある程度、自身の裁量で裁くことができる。肉体言語に精通する彼女の前では、ファフニール抜きのロビンなど無力な子羊に過ぎない。

 また第二軍団長は規律を重んじる人格者であり、暴走しがちな魔物らを締め付けることにかけては第一人者だ。ある意味、ロビンの最たる天敵と言えるだろう。ちなみに両者は仲が悪い。

 そして第三軍団長は誰もが認める聖女であり、刹那主義のロビンでさえ自重せざるを得ない対象である。尚、過去に自重できなかったことがあったらしいが、その際の出来事は彼の中でトラウマとなっている様子だ。少なくとも彼女の前ではいい子を演じようとする程度には、第三軍団長のことを苦手としていた。


 そんな〝始まりの三体〟の面々なのだが、しかし、彼ら彼女らに上司(ロビン)の面倒を見てもらうことなど絶対に不可能である。この三名は一様に、それぞれ重責を担っているからだ。今のアルキマイラの状況で他に手を回す余裕など一切ない。


「第三軍団長などは、過労死の気配すら漂わせていると聞くからな……」


 風の噂でしかないが、噂される程度には過酷な激務に就いているという証でもある。第一軍団長や第二軍団長も、職責の重さでは大差ない。

 そうして消去法で残ったのが自分であり、こうして困った上司の見張り役を務めているというわけだ。


 ともあれ、責任ある立場に任命されたからには職務を全うせねばならない。復興支援の取り纏めやラージボックスの建設管理についても、副責任者たる彼の仕事の範囲内だ。メルツェルは王の期待に応えるべく、工程表を精査する作業に戻る。


「うん?」


 と、そこで強烈な違和感に囚われた。

 室内が静けさに包まれていることに気づいたからだ。

 静けさという概念は、自分の上司とはおよそ対極に位置する代物である。

 メルツェルは嫌な予感を覚えつつ、自身の腕輪から伸びる鎖の先を見た。


「……やられた」


 頑丈な鎖の先には、鈍く輝く腕輪だけが残されていた。




    +    +    +




 無駄に高い技量(DEX)を活かし、自由の身となったロビンは小城へと向かった。

 目的はいつもの日課をこなす為である。


 いつもやっていることとは、言い換えれば『お約束』であり、『お約束』とは守られるべきものだ。

 他ならぬ王様もそんな感じのことを言っていたので間違いないだろう。

 つまりは自分がコレを行うのは義務であり、決して憂さ晴らしやストレス解消の類いではない。

 あくまで『お約束』を守る為なのだ。


「というわけで、ヒャッハー!」


 小城の廊下を疾走するロビンは、いつも通りの台詞を叫んでいつも通りの所業に励んだ。即ち、城勤めの女官を対象にしたスカートめくりである。


 さすがに連日やっている悪戯とあって女官のガードも固くなっているが、ロビンの手腕を上回る程ではない。八大軍団長の中でも随一の技量(DEX)は伊達ではないのだ。ロビンは機敏な動きで女官の足元に滑り込むや否や、返す刀でスカートをめくり、その中身を検める。


「い、イヤぁ――!?」

「気を付けて、今そっちに行――ひやぁっ!」

「カ、カエルの群れが天井から……!」

「落ち着きなさい、それはただのオモチャよ! それよりも襲撃に備え――キャァァ!?」


 甲高い悲鳴を背に、ロビンは廊下を駆け抜ける。

 さながら自由の風だ。

 風は数多の犠牲者を置き去りに、犯行現場から速やかに離脱する。

 そして自由の体現者は、廊下の角を曲がった先で一つの人影を捉えた。


「むっ」


 中途半端に尖った耳。ハーフアップの白い髪。白い肌。白いチュニック。こちらに背中を向けていて顔こそ見えないものの、白で統一されたその姿には心当たりがあった。


 ラテストウッドを治める女王レイファの妹姫、リリファ=ルム=ラテストウッドである。


「……ふむう」


 物陰に身を潜め、ロビンは思考に耽った。


 悪巧み同盟(カミーラ)経由で聞いた情報によると、彼女はこの国における王女であるらしい。そして第一王女であるレイファが女王に即位した今、王位継承権第一位に繰り上がった彼女は、この国において二番目に高い地位に就いていると聞く。


 しかしながらロビンにとって、聞かされたそれはいまいち理解の及ばない内容だった。


 そもそも王位継承権という概念がよく分からない。

 [タクティクス・クロニクル]という世界を生きてきた魔物にとって、(プレイヤー)とは不老の存在であり、世代交代の必要などなかったからだ。

 叛逆により王位を簒奪されることはあっても、次の世代に王位を引き継ぐなどというイベントは、(プレイヤー)の治める国では存在しなかったのである。


「王様以外の偉い人っていえば軍団長だけど……これも違うよね?」


 多分、違うだろう。

 軍団長には多かれ少なかれ戦闘力が求められる。また戦闘力において他者に一歩譲るとしても、それを補ってあまりあるほどの能力が必要とされる役職だ。

 しかしながら物陰に潜んで窺う限り、彼女には戦闘力が無いように見受けられる。自分のように優れた技術や、カミーラのように卓越した情報処理能力を持っているようにも見えなかった。

 廊下で女官と談笑するその様は、ただの少女のようにしか映らない。


「うーん……」


 ともあれ、だ。

 彼女が『偉い人』であることは間違いないのだろう。

 女官たちが敬意を払っている様子からも、それは確かな事実だ。

 そしてだからこそ、ロビンは迷う。

 彼の脳裏を占めるのは、リスクと娯楽を天秤にかけた悩ましい難問、即ち――


「悪戯すべきか、すまいか、それが問題だ」

「ふざけんなァッ!」


 哲学者のような表情で告げるロビンをはたいたのは、全力疾走で追いついてきたメルツェルだ。

 息を切らしつつ小声で叫ぶという器用な真似をこなした彼は、鬼気迫る表情で己の上司を問い詰める。


「団長殿、アンタ、自分が何言っているのか本気で分かってますか? いくらなんでも手出ししていい相手とそうでない相手の見分けぐらいはつくでしょうに。はっきり言って洒落になりませんよ……!」

「えー、だってさー」

「だってじゃありません。……さあ、そろそろ気が済んだでしょう。帰りますよ。団長殿にも、工程表やらチェックリストなんかを査閲してもらわないといけないんですから。他にもファフニールの出撃準備に関する予算の申請書や、ラージボックスの査察とかがですね……ああ、それに現地住民との交流活動に関する報告書の纏めなんかも……」

「細かいなぁメルツェルは。いつもそんなことばっか考えてると、将来ハゲちゃうよ?」

「テメェがちゃんと仕事してりゃここまで悩まなくて済むんだよッ!!」


 頭の血管をブチ切る勢いでメルツェルは叫んだ。

 ここ数日の鬱憤をぶちまける、心の底からの咆哮であった。

 そして声を顰めることも忘れたその絶叫により、談笑していたリリファと女官らが一斉に振り向いた。


「あっ……」


 自らの失策を悟るももう遅い。

 大きな瞳を瞬かせるリリファとバッチリ視線が合ってしまったメルツェルは、頬にたらりと汗を流した。


「え……えーっと、たしか、メルツェルさん?」

「は、はい。アルキマイラ本国より派遣されましたメルツェルです。リリファ王女におかれましては、ご機嫌麗しく」


 予習してきた礼節の言葉をどうにか口にする。

 そんなメルツェルの視線の先で、リリファは無垢な表情のまま素直な疑問を口にした。


「あの……そんなところで、なにしてるの?」


 王女言葉すら忘れた素の質問である。

 そして問われたメルツェルはピシリと硬直した。

 物陰に身を潜めたまま様子を窺うその様は、どこからどう見ても不審者のそれでしかない。


「…………そ、それは、ですね」


 メルツェルは言葉に詰まった。

 なにせここは、友好国の城の只中である。

 素直に現状を語るとなれば不敬も甚だしく、かといって都合のいい言い訳がするりと出てくるでもない。

 彼はこういったシチュエーションにおけるアドリブに弱いところがあった。


 そうして固まり続ける両者だったが、唐突にその均衡が破られた。

 例えようもない緊張感に支配される中、無造作に数歩歩み出るのは、ロビン=ハーナルドヴェルグその人である。

 しかしながらその顔には、メルツェルをして数度しか見た記憶のない、真剣そのものな表情が浮かんでいた。


「――――」


 ロビンはリリファと言葉を交わしたことはない。

 それどころかまともに顔を合わせたことすら、これが初めてのことだ。

 メルツェルの涙ぐましい努力により、両者が遭遇しないよう取り計らわれていたのである。


 だが、言葉など不要だった。

 視線を交わすだけで十分に事足りた。

 目と目が合ったその瞬間、他者には説明不可能な理解力で天才(ロビン)は察したのだ。

 彼女が自分と同類であることを――即ち、紛うことなき『悪戯好き』であるという事実を。


 ロビンはにんまりと微笑み、それを見たメルツェルは血の気が引く音を耳にした。


「やあやあ、ハジメマシテだね王女様! ボクはアルキマイラから来たロビン君だよ! 気軽に『ロビン君』って呼んでくれると嬉しいな!」

「……えっと。姉様からは、軍団長の人たちとは王女として接しなさいって言われてるんだけど……じゃなくて、申し付けられているのですが」

「ボクに関してはそんなの気にしないでだいじょーぶだいじょーぶ! 王様からもラテストウッドの人たちとは仲良くするように言われてるし、もっとフランクにいこうよフランクに!」


 ロビンは満面の笑顔でリリファに語り掛ける。

 対するリリファはしばし呆気に取られていたものの、『アルキマイラの軍団長(えらいひと)が友好的に接してくれている』という事実を改めて認識するなり、これはチャンスとばかりに朗らかな笑顔を浮かべて応じた。

 そうして二人は、もっぱらロビンの悪戯話を中心として、順調に会話を弾ませていく。


 背後に控えるハーフエルフの女官は「お願いだから止めてください」という視線をメルツェルに送っていたが、当のメルツェルも同じ思いを抱いていた。事前に対話マニュアルを読み込んでいたものの、こんなシチュエーションは想定外であり、王女である彼女にどう接していいのか分からなかったからである。


 結果として誰に止められることもなく会話を弾ませる二人は、やがて破滅的な展開へと話を進めていく。


「あはは、なにそれおもしろーい! ロビン様――じゃなかった、ロビン君、本当にそんなことしちゃったの!?」

「やったともさ! 椅子に座った瞬間、天井を突き抜けて空に跳んでったガルの顔は今思い出しても痛快ものだね! 後でめちゃくちゃ怒られたけど!」

「でもでも、空飛ぶ椅子ってどういう仕組みなの? 魔道具だよね? それって作るの難しいんじゃないの?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたね王女様。だけどボクに作れない悪戯アイテムなんてないのさ! だってボクってば天才だから!」

「すごーい! あ、リリファのことは『王女様』じゃなくて『リリファ』でいいよ」

「じゃあリリファちゃんで! いやー、こんなに意気投合できる子は久々だよ。よかったらボクの友達になってくれるかい?」


 やめてください、と二人を除く全員が心を一つにした。

 しかし彼ら彼女らの願いに反し、リリファは満面の笑顔で、差し出されたロビンの手を握る。

 両陣営を代表する悪童同士が手を組んだ瞬間であった。


「あっ、そうだ。これから面白い遊びをしにいくんだけど、一緒にどうかな?」

「面白い遊び? なになに、どんなことするの?」

「ふふふ。それはだね――」


 期待に瞳を輝かせるリリファ。

 そんな彼女の前でわざとらしい忍び笑いを漏らすロビン。


 その二人の姿に、二人を除く全ての者が、言いようのない不吉な予感を覚えた。

 そして――




    +    +    +




「ヒャッハー!」

「ひゃっはー♪」


 廊下を疾走する小さな影が二つ。

 一つは小柄な少年のものであり、一つは幼い顔立ちをした少女のものだ。

 両者は小城の廊下を風のように駆け抜けていき、本来あるべき静謐な空気を木っ端微塵に打ち砕く。


「リ、リリファ様……? って、ひやあぁぁぁ――!?」


 まず女官の一人が犠牲になった。

 彼女は目の前に躍り出た王女に気を取られ、その隙に背後から忍び寄っていた小人によってスカートをめくり上げられたのである。

 無防備なところを襲われた形になった女官は、めくれたスカートを抑える動作すらも遅れ、ロビンによる念入りに検査を受けることになった。


「イエーイ!」

「いえーい♪」


 下手人の二人はハイタッチをして成功を祝い合う。

 そして犠牲になった女官が我に返った頃には既に、その足は次の犠牲者を求めて駆け出していた。


「あ、ロビン君! 今の時間ならこっちの方がいっぱいいるよ! いっぱいめくれるよー!」

「了解ー! そーれそーれ、王女様と軍団長様のお通りだーい! イヤッハー!」


 両者は軽快な会話を交わしつつ、我が物顔で廊下を疾走する。

 その蛮行を止められる者などいない。

 リリファ王女という友好国(ラテストウッド)の権力者を味方につけたロビンには、もはやメルツェルですら制止する術を持たなかったのだ。

 かくして野放しとなった両国の悪戯っ子は、新たな友人を得られた幸運を喜びつつ、小城のあちらこちらに混沌を撒き散らしていく。


「あぁぁ……リリファ様の教育に悪影響が……」


 彼女の教育係でもある女官長(ウェンリ)は、悲痛な表情でそんな呟きを零す。

 そうして廊下に崩れ落ちる彼女に強烈なシンパシーを感じつつ、メルツェルは疲れ切った表情のまま、被害者の面々に謝罪の品を配って回るのだった。


 後に、この二人は『悪戯っ子同盟』なる頭の痛い組織名を名乗って暴れまわるのだが、それはまた別の話である。






いつもお読みいただき、ありがとうございます。


本作の書籍三巻が、本日3月13日より発売されています。

詳しくは活動報告をご覧ください。

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