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幻の鳥を探して

 勢いで外に出たのは良かったが、広い砂漠ではどこをどう探せばレアモンスターに会えるのか見当もつかず、シトラス達は途方に暮れてしまった。


「暑い〜〜」


 パタパタと手で仰いでみても、涼しくはならない。


「ティナさん、一旦誰かに話を聞いた方が良さそうですね」

「そうね、シトラス」


 やみくもに歩き回る訳にもいかず、ティナは徐々に落ち着いてきた。


「それにしても、珍しいですね。ティナさんがあんなに興奮するなんて」

「あら、ごめんなさいねロック。変なとこ見せちゃった?」

「いえ、そういう訳ではないんですけど。ただ、やっぱり魔法を使う者としては欲しい物なんですね」

「そりゃそうよ。ね、ジェニファー」

「はい!」

「じゃ、二人の為に頑張りますか。な、シトラス」

「ああ」


 詳しい話を聞く為に、アクアル村に戻る。

 目撃者は数人いた。

 世界でも珍しいレアモンスターの話がここまで出ているって事は、信憑性はある。

 シトラス達も初めてだった。

 今まで旅をして来ても、光る魔物なんて見た事が無い。

 人々の話によると、アクアル村から5分ほど西に歩いた場所にあるオアシスの上空を、よく飛んでいるそうだ。

 では、オアシスに向けて出発。

 一応、これも用意しておこう。

 ロックがポケットから取り出した物。

 方位磁石だ。

 辺りに何も無い砂漠では、方角が分かりづらい。

 太陽を見るって言っても……。

 実はこれ、船でも役に立つ。


「え〜っと、西は向こうだな」

「よっしゃ〜行くか! ジェニファー、ティナさん」

「ええ」


 ざっざっ。


 砂を踏む音だけが響く。

 ジェニファーは今度は急がない。

 また転んで、シトラスに迷惑かけたくないもんね。


「それにしても、暑っついな」


 額の汗を拭いながらシトラスが言う。


「そうね。あたしも」

「じゃあいつもの格好にしたら? ミニスカートに」

「嫌よ。日焼けしたくないもん」

「日焼けどころか火傷するわよ。ジェニファー」

「えっ、それは困ります〜」

「いつまでも可愛い女でいたいもんな。シトラスの為に」

「そうそう。って、ロック何言ってんのよっ」


 ジェニファーは顔が赤くなった。

 何故かシトラスまで。


「あれま、シトラスまで真っ赤になってら。もしかして自覚してるのか?」

「あ、アホっ! そんなんじゃねぇよ」


 シトラスはそっぽを向く。

 ジェニファーも同じく。

 ティナが少し呆れたように言った。


「あ〜あ、二人とも素直じゃないわね……」


 こりゃあ、もう少しアタシが背中を押してやらないと、とティナは思った。



 ヒュウウウウウ。


 美しき金色の翼。

 先っぽが赤みを帯びている。

 青い目と唄うような鳴き声。

 優雅に空中を舞うその姿は、見た人にしか分からない高貴さを秘めていた。

 絵に描きたいくらい。

 こんな魔物を、本当に魔王が生み出したのか。

 下に広がる水にもその姿が写っている。

 青く澄んだ水だ。

 砂漠の人々の癒しの空間、オアシス。

 そのほとりに、飛び疲れた鳥が降りて来た。

 まるで、誰かを待っているみたいに。



「五月雨!」

「飛天狩射!」

「行きなさい、ウィル!」

「ウイングナイフ!」


 その頃のシトラス達。

 いきなり穴の中から出てきたモンスター、サンドアントに襲われていた。

 デカイ蟻のモンスターだ。

 ぞろぞろと出て来る。

 ティナが叫んだ。


「シトラス、一気に決着をつけないとヤバイわよ!」

「はい、分かっています!」


 彼は剣を平行に構えた。

 そこからターンを描くように、サンドアントの群れの中に入って行った。

 この動きはーー、


「姉さんが得意だったこの技、使わせてもらう。演舞斬!」


 ザザッ。


 サララと同じように、シトラスの動きも無駄が無い。

 サンドアントの攻撃を受け流し、上手く対応している。

 実戦を重ねて、強くなってるという事か。

 ロックもフォローする。


「炎乱狩射!」


 サンドアントは静かになった。

 ふう。

 汗を拭き、シトラスは前を見た。

 今まで歩いて来たコースには生えて無かったヤシの木が見える。

 もしかしてあそこがオアシス?

 近づいて見た。

 透明の水が湧き出ている。

 覗くと鏡のように、彼らの姿を写した。


「シトラス……」


 誰かが呼んでいる。

 金色の翼を持つ光る鳥。

 シトラス達を見つめていた。


「あ……」


 声が出ない程美しい。

 鳥は羽ばたき、シトラス達の側に来る。


「勇者シトラスですね?」

「レアモンスター……。これが……。しかし何故、俺を? 待ち伏せか?」


 綺麗な声の鳥は言う。

 どこか、悲しげだった。


「レアモンスター……。確かにそうかもしれませんね。今の私では。死んだ私達を、魔王がストーンモンスターとして、甦らせたのですから」

「えっ、何? どういう事だ?」

「私達レアモンスターと呼ばれる者は、もともとは聖獣として生きていたのです。死んだ後、魔王は私達の魂を魔力を秘めた石の力により封じ、純粋に部下としてのモンスターとして蘇生させました。しかし、わずかに聖獣としての心は残っていたのです。勇者シトラス。私はこの地で待っていました。あなたのその力で、私達の魂を浄化してもらう事を」

「………」


 突然のその話に、シトラス達全員言葉が出なかった。

 あまりの出来事に驚いているのだ。

 まさか聖獣の魂が封じられているなんて、思いもしなかったから。

 鳥も黙ってシトラス達を見る。

 シトラスが沈黙を破った。


「あ、あの……。あなたは本当に、聖獣だったんですよね」

「ええ。大抵の人は、もちろん疑うでしょう。けれど私は、あなた方と戦うつもりはありません。ただ、浄化して欲しいだけなのです」


 シトラスは、アクアル村の人達の話を思い出した。

 その人達が口を揃えて言っていた事。

 鳥はただ、飛んでいるだけで、攻撃など一切してこなかったと。

 その鳴き声が、時々妙に切なげで、耳に残ったと。

 目を閉じ、考える。

 そして目を開けた時、彼の中で答えは決まっていた。


「分かりました。あなたの言葉を信じることはにします。モンスターとして、無理やり復活させられた魂を、解放しますね」

「シトラス……」


 ジェニファーがシトラスを見た。

 シトラスは笑ってみせる。


「ジェニファー、不安な気持ちも分かる。でもこの鳥は俺達に会っても、攻撃すらしてこなかった。村の人達の話にもあったろう? ただ空に向かって、悲しく鳴いているだけだって。だから俺は、信じる事にするよ。解放してやろうぜ。悪しき力から」

「うん!」


 シトラスの説得に、ジェニファーは頷いた。

 ロックとティナも笑って従う。

 

「さて」


 服の袖をまくり、左肩を出す。

 勇者の印が現れた。


「行きましょうか」


 鳥に向かって、手を掲げた。


 
















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